第95話クーデター1

「ミゲル、ブリジット。王都に潜入している者達から連絡が入りました。どうやらクーデターが起きたようです」


 義母が今日の夕飯のメニューを伝えるくらい気軽な様子で告げた言葉に、僕もブリジットも反応できなかった。


 はっ?!

 クーデター?!

 何がどうしてそうなった!!?


 先に我に返ったブリジットが義母に訊ねた。


「お母様、クーデターとは誰が誰に向けたものですか?」


「グラバー大公家が王家に反旗を翻したそうよ」


 ブリジットは絶句していた。

 気持ちはよく分かる。僕も同じ気持ちだ。だって意味が分からない。そもそもグラバー大公家は御家騒動真っただ中じゃなかったっけ?いや、それ以前にクーデターを起こす理由がサッパリだ。そんなことしてたら余計立場が悪くなるだろう。一体全体何考えてるんだ?!


 僕達の疑問に義母は事も無げに答えた。


「いつかは行動に起こすとは思っていましたけれど……このタイミングで事を起こすなんて予想外と言うべきか、予定通りと言うべきか」


「お母様?」


「貴方達には説明が必要のようね。此処ではなんだから会議室で話しましょう」


 義母のいう所の会議室とは「作戦会議室」の事である。

 普段は一切使用しない会議室。緊急のことが起こればそこが話し合いの場になる。


 どうやら義母はクーデターの詳細を知っているらしい。

 王宮に密偵を送り込んでいるからそこからの情報だということは分かる。それでも情報は共有していたはずだ。僕達に内緒にしていた事でもあるのだろうか?








「さてと、どこから話せばいいかしらね」


 会議室に集まった僕達はテーブルについた義母の言葉を待つ。

 義母はゆっくりと口を開いた。


「私たち連合軍が善戦していることで王宮内の体制が崩れ始めていることは分かっているわよね?」


 僕とブリジットは無言のままコクリとうなずく。

 それは密偵からの報告で知っていたことだ。


「大公家がクーデターを起こした直後に、彼らの配下の者達が連合軍側に接触して来たそうなの」


「なんでまた?」


 疑問をそのまま口にする。

 クーデターの手助けをして欲しいということだろうか?

 でも何のために?


「彼らの言い分はこうよ。『自分たちは偽王の存在を認めない。前国王を弑逆した偽物の王子を誅し、正当なる王家の帰還を望む』というものらしいわ」


 意味不明な言い分だが、要するに、エンリケの首を手土産に連合軍に降伏して自分達の身の安全を確保したいということだろう。その方が楽だし安全だ。ただ、それが事実であればだが。


「それはつまりクーデター側がこちら側に寝返るという解釈であっていますか?」


「えぇ、その通りよ。まぁ、彼らが寝返ったところで意味はないと思うのだけれど……」


「その前に、今の大公は誰なんですか?跡取り問題解決してないでしょう?」



 自分達の問題はどうなったんだ?

 次の大公家の当主の発表なんて聞いてない。

 まあ、今は内乱だから発表なんてしないけど、それでも密偵から連絡が来るはずだ。それがないと言う事はまだ決まってないのでは!?


 

 



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