第10話 屋上の戦い
屋上には静かに風が吹いていた。
ひとまずは敵はいないようで僕達は一息ついた。
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だけど、ここからどうすればいいんだろう? 助けを待つしかないのかな」
僕には戦う力も何も無い。ヒーローのようにテロリストを倒したりはできないのだ。
するとメアリがポケットから携帯端末を取り出した。
「ひとまずこの学校のセキュリティを元に戻しておきますね」
「え? できるの?」
「はい、私が止めた物ですから、いざという時はすぐに戻せるようにしておいたんです」
やはりメアリは完全に僕を裏切ったわけじゃなかったんだ。最初からこの作戦に疑問を持っていた。
そして、彼女が端末を操作すると校内のあちこちで爆発音が響いて、煙が上がった。
警備システムがテロリストを排除しようと動き出したんだ。
「これでしばらくは時間が稼げるはずです」
「ありがとう。このまま終わってくれると助かるんだけど」
「そんな甘い人達じゃありませんよ」
「その通りだ」
「「!!」」
その時、バアンと大きな音を立てて屋上の扉が開かれ三人の男達が姿を見せた。一人は銃を構えて、もう一人はロケットランチャーのようなものを背負っている。
そして、中央にいたリーダーと思われる男が歩みを進めてきた。メアリが僕を庇うように前に立つ。
「ご主人様、私の後ろに」
「でも……」
「大丈夫です。あの人達に私は撃てません」
「……分かった」
情けないけど僕には彼女の言う通りにするしかなかった。リーダーの男が通信機で聞こえたのと同じ声で話しかけてくる。
「メアリ、我儘はよしなさい。セキュリティをもう一度止めるんだ」
「嫌です」
「ならば仕方ないな。痛めつけてでも言うことを聞かせよう」
「やってみて下さい」
手を動かす男にメアリも挑発するように両手を広げる。部下の男達は無言のまま武器を構えた。
僕は何もできないまま見ている事しかできないのだろうか。
「ご主人様だけは傷つけさせません」
「ふん、減らず口だけは教えた通りだな。私は育て方を誤ったようだ。やれ!」
男の号令とともに二人の部下が動いた。メアリが身構える。僕は思わず飛び出した。
「やああああ!」
メアリを守るんだ。この僕の手で。見ているだけなんてやはり僕には出来なかった。
僕が拳を構えると、男達は驚いた顔をして慌てて下がった。
「馬鹿な、武器を持っている相手になぜ向かってくるんだ? ただの学生じゃないのか!?」
「舐めるなよ! 僕は少林寺拳法を習っていた時期があるんだ。アチョ―!」
「くそっ!」
男達は銃とロケットランチャーを発射しようとしてくるが、リーダーの男が止めた。
「よせ! 奴は大事な人質だ。殺すんじゃない!」
「「くっ!」」
男達は武器を下ろす。格闘でも勝ち目はないかもしれないけどやるしかない。
この隙に僕が倒せれば良かったんだけど、彼らを横から攻撃して倒して武器を奪ったのはメアリだった。
「ありがとうございます、ご主人様。隙を作ってくれて」
「ああ、お役に立てたようで何よりだよ」
「さあ、後はあなただけです」
メアリがリーダーの男に銃を向ける。だが、男は観念したりはせずに不気味に言うのだった。
「メアリ、本当に我々を裏切るつもりなのだな」
「はい、わたしはもうご主人様のメイドなんです」
「よかろう。ならば我々も手段に打って出る」
男が手を振り上げると武装ヘリが屋上に姿を現した。男が乗り込むと猛烈な風を吹きおろしながらミサイルの照準が僕達を狙ってくる。
「さよならだ、メアリ!」
「どうすれば……」
「ご主人様、伏せてください!」
「え? うわああああ!」
僕はメアリに押し倒される。その直後、激しい爆風が僕達の体を包み込んだ。
ミサイルにやられたのだろうか。いや、爆発して墜落していくのは武装ヘリの方だった。
「大丈夫か、二人とも!?」
「ああ!!」
駆けつけたのは先生とクラスメイト達だった。みんなが僕達を助けてくれた。戦っていたのは僕達だけではなかったのだ。
安心する僕達だったが、僕の耳は敵の迫る音を聞き逃さなかった。
「許さんぞ、メアリ! お前は連れ帰って再教育だ!」
「僕のメイドに汚い手で触るんじゃねえ!!」
僕の少林寺拳法は見事に敵のリーダーにクリーンヒットした。子供の頃にちょっと習っていただけの事を意外と体は覚えていた。
男は目を回して気絶した。後は警察の仕事だ。こうして、僕達は無事に学校を守りきったのだった。
事件が解決してから数日後の家で。
「はい、ご主人様めしあがれ」
「あ、うん」
僕達はいつものようにテーブルを挟んで向かい合って食事をとっていた。あれからもメアリは僕の家でメイドとして暮らしている。
テロリストとの関係は不問とされたようだ。僕が願っていた事が叶って良かったと思う。
「今日は腕によりをかけて作ったんですよ。ほら、ハンバーグとか」
「美味しいね。メアリは料理上手だなあ」
僕が褒めると彼女は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ご主人様に喜んで頂けて嬉しいです」
「うん、これからもよろしくね」
「はい、ご主人様」
そう言って微笑む彼女はとても可愛くて、僕はこの笑顔がいつまでも続くようにと願いながら食事をするのだった。
平凡な僕の家に可愛いメイドさんが来ました けろよん @keroyon
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