第11話

 ……次の日、俺はベルドランさんに会いに行くことにした。彼には昨日のことについて話す必要があると思ったからだ。それに、他にも聞きたいことがあったからな。

 彼がいる場所に向かう途中、俺はアイラさんと出会った。


「お久しぶりです」

「どうも」

「最近見かけなかったのですが、どちらに行かれていたのですか?」

「実は『黒猫団』のアジトに行っていました」

「なるほど、そういうことでしたか」


 彼女は納得したように呟いた。


「はい。それで、少し相談したいことがありまして」

「どのような内容でしょう?」

「はい、実は……」


 俺は彼女に事情を説明した。


「……なるほど、そのような事が」

「ええ。どうしたらいいと思いますか?」

「そうですね……。私としては一度ご両親の元に向かうべきだと思います。きちんと話し合うべきです」

「そうですか……。分かりました。そうすることにします」

「頑張ってください」

「はい」


 俺はそう言うと、彼女と別れた。……さて、頑張るとするか。




 ベルドランさんがいる場所は『黒猫団』の拠点の近くにある酒場だ。俺は中に入ると、店の奥にある個室に向かった。扉を開けると、そこにはベルドランさんの姿が見えた。


「待たせてしまってすみません」

「いや、気にするな」

「ありがとうございます。……ところで、今日はどんな用件で?」

「いや、大したことではないが、少し話をしておこうかと思ってな」

「そうですか。では、早速聞かせてもらいましょうか」

「ああ、分かった」

「……アンタは一体何を企んでいる?」

「……どういう意味ですか?」

「とぼけるなよ。アンタは何かを隠している。そうだろう?」

「……」

「答えられないってことは、図星か」

「……いつから気がついていましたか?」

「確信したのは少し前だがな。最初に会った時から違和感を感じていた。それに、アンタの強さは明らかに普通じゃなかったからな」

「なるほど」


 ……どうやら、完全にバレてしまっているようだな。なら、隠す必要も無いか。俺は覚悟を決めると、自分の正体について説明した。


「俺は異世界から召喚された勇者なんです」

「そうか……。それで、目的はなんだ?」

「この国を変えようとしています」

「この国を変える? つまり、この国の王を殺すということか?」

「ええ、そうです」

「……どうしてだ?」

「この国は間違っています。だから変えるんです」

「この国が間違った国だと? どこが間違っているというんだ?」

「この国の人々は他人のことよりも自分を優先しています。それは、とても危険なことだと俺は思います」

「確かにそうかもしれんな。しかし、それがいけないこととは思えんが?」

「はい、そうですね。ですが、俺は許せないんです。人の命をなんだと思っているんだと。だから変えたいんです」

「……そうか」

「協力して貰えませんか?」

「……悪いが断る」

「理由を聞いても良いですか?」

「ああ、構わないぜ」

「アンタの話を聞く限りだと、アンタはこの国を良くしようとしているみたいだな」

「ええ、その通りです」

「それなら、俺が協力する必要はねえはずだ。俺が手伝うのは『黒猫団』だけだからな」

「……なにが望みですか?」

「そうだなぁ……」


 彼は顎に手を当てながら考え始めた。


「……俺が欲しいのは情報だ」

「情報ですか?」

「ああ、俺はある組織に所属している。そいつらは裏の世界で活動している奴らの集まりだ。そこでなら、色々と役に立つ情報が手に入るだろう」

「……そうですか。ちなみに、その組織はなんていうんですか?」

「『玄武会』だ」

「『玄武会』……」

「まあ、聞いたことはないだろうな」

「ええ、初めて聞きました」

「そうか。まあ、無理もないな。『黒猫団』と違って、『玄武会』はあまり表には出てこないからな」

「そうなんですか?」

「ああ、そうだ。何故だと思う?」

「……分かりません」

「それはな、俺達が汚れ仕事を請け負っているからだ」

「……っ!」

「まあ、驚くのも無理はないだろうな。『黒猫団』の連中は正義感が強い者ばかりだからな」

「……そうですね」

「しかし、俺は違う。俺にとって『黒猫団』の連中は大切な仲間であると同時に家族のような存在でもある。だからこそ、俺の邪魔をするような真似はして欲しくないんだよ」

「……」

「俺の目的は金を稼ぐことだ。それ以外のことに時間を割くつもりはない」

「……そうですか」

「まあ、そんなに落ち込むなって。別にアンタのことを嫌いになった訳じゃないんだからよ」

「そうなんですか?」

「ああ、そうだとも。まあ、そもそもの話として、アンタが本当に悪人だったとしても、俺にとってはどうでもいいことだけどな」

「それはどういう意味ですか?」

「言葉の通りだ。もし仮にアンタが極悪非道の大悪党だったとしたら、その時は俺がぶっ殺してやるさ」

「……」

「安心しろ。アンタのことは必ず守ってみせる」

「ありがとうございます」

「礼を言う必要はないさ。俺が好きでやってるんだからな」

「そうですか。……ところで、一つだけ質問をしてもいいですか?」

「何だ?」

「どうしてそこまでしてくれるんですか?」

「さっきも言っただろう。俺が好き好んでやることだって」

「そうですか。でも、それだけではないんでしょう?」

「……気づいていたのか?」

「はい」

「……そうか。それなら単刀直入に言おう。俺は昔、とある事件に巻き込まれたことがある。そして、その時に一人の少女の命を奪ってしまった。それ以来ずっと後悔していたんだ。あの時、自分がもっと早く駆けつけていれば、あの子は死なずに済んでいたかもしれないと。それからというものの、俺は誰かを助けられるような人間になりたいと思っていたんだ。だからこそ俺はアンタに協力すると決めたんだ。これは俺なりの贖罪なのかもしれないな」

「そうですか。話してくれてありがとうございます」

「いや、気にするな」

「……最後に一つだけお願いがあります」

「言ってみろ」

「俺の手伝いをして欲しいとは言いません。ですが、貴方の力を貸りたいと思っています」

「……そうか。だが、俺はこれからも一人で行動するつもりだ」

「……そうですか」

「ああ、残念だが諦めてくれ」

「いえ、大丈夫です」

「そうか。なら良かった」

「ええ、こちらこそありがとうございました」

「ああ、また機会があればどこかで会うこともあるだろうさ」

「そうですね」

「……ところで話は変わるが、『黒猫団』の子供達の調子はどうだ?」

「そうですね……。皆さん元気ですよ」

「そうか。……それで、アンタから見てあいつらはどう見える?」

「どう、と言われましても……」

「率直な感想を聞かせて欲しい」

「そうですか……。……では、僭越ながら言わせていただきます。彼らは間違いなく天才です。それも飛び抜けた才能を持っている」

「やはりそうか」

「はい。おそらく将来はかなりの大物になるでしょうね」

「なるほどな」

「ただ……」

「ん? どうかしたか?」

「いえ、何でもありません」

「そうか。……まあいい。そんじゃあ、もう行くわ」

「はい、分かりました」

「じゃあな」


 彼はそう言うと、部屋から出て行った。

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