第9話

 その後、俺はアジトの中を見て回った。すると、奥の方から声が響いて来た。


「ねえねえ、君が新しい団員かい?」


 見ると、そこには一人の少年がいた。


「君は?」

「僕は『黒猫団』の団員だよ!よろしくね!」


 ……なるほど、この子も『黒猫団』の一員か。見た目は十歳くらいに見えるけど……。まあ、年齢なんか関係ないよな。


「よろしくな」


 そう言うと、俺は彼の頭を撫でた。


「うん! よろしくね! お兄ちゃん!」


 ……お? 今、この子『お兄ちゃん』って言ったよな?

 ……そういえば、アイラさんにも『お姉さん』って呼ばれたような気がするな。……まあいいか。細かいことを気にしていてもしょうがない。


「ところで、君の歳はいくつなんだ?」

「僕の歳?」

「ああ、そうだ」

「んー、よく覚えてないや。でも、たぶん百歳以上だと思うよ?」


 ……は? 百歳? ……ちょっと待て、そんなことあり得るのか?


「冗談だろ?」

「ううん、本当だよ?」

「……そうか」


 ……まあ、本人がそう言うならそういうことにしておくか。

 それからしばらくすると、『黒猫団』のメンバー達がやって来た。


「こんにちわー」

「やあ、皆さん。今日はお揃いなんですね」

「はい! これからみんなで訓練をしようと思って来たんですよ!」

「なるほど」

「ねえねえ、シンくん! 僕達と一緒に遊ぼうよ!」

「ええ、構いませんよ」

「やったー! じゃあさ、鬼ごっこをしようよ!」

「いいですね。やりましょう」




 それから俺たちはしばらくの間、一緒に遊ぶことにした。ちなみに、ルールは普通の鬼ごっこと同じだったのだが……。

 ……数分後、そこには地面に倒れ伏している子供達の姿があった。……い、一体何故こんな事に……。


「……シン殿は化け物か?」

「え?」

「シンさんは凄いですね!」

「いや、俺は普通ですよ?」

「嘘をつけ! どう考えてもおかしいだろう!?」


 ベルドランさんは納得いかないといった様子で叫んだ。他の人達も似たような反応をしている。

 ……あれ? 何か変なことしたっけ? ……俺は自分の行動を思い返した。

 ……………………あっ、しまった。つい反射的に全力を出してしまった。……これはマズいな。何とか誤魔化さないと。


「……そうですか? これくらいの運動なら誰でも出来ると思いますが……」

「いや、絶対に無理だ!」

「そうです! 絶対出来ません!」

「いや、だから……」

「とにかく! もう二度とあんな真似をするんじゃねぇぞ!」

「はい……」


 ……うーむ、どうしたものか。

 考えながら俺は町の酒場へと向かった。




 一人でちびちびやっていると知らない男に話しかけられた。ここでは珍しい事ではない。


「なあ、アンタ」

「え? 俺ですか?」

「そうだ。少し聞きたいことがあるんだが、良いか?」

「はい、構いませんが……」

「実は最近、町で妙なものが売り出されているという噂を聞いてな」

「妙なもの?」

「ああ、何でも飲むだけで身体能力が上がる薬らしいんだが……」


 ……は? どういうことだ? まさか、あの薬のことか?


「……それは本当ですか?」

「ああ、間違い無い」

「それで、その噂はどこで聞いたんですか?」

「うちの組織が経営している酒場でな」


 ……組織? 一体どういう事だ?


「……組織というのは?」

「……『黒猫団』という組織だが、知らないか?」


 ……『黒猫団』だと?……ということは、彼女が言っていた組織とは……。


「知ってます」

「本当か!?」

「はい」

「それで、どんな奴らなんだ!?」

「えっと、それは……」


 ……さすがに言えないよな。……しかし、困ったことになったぞ。これは早急に手を打たないと。


「薬はどこで売られているんですか?」

「……悪いが、それを話すつもりは無い」

「……そうですか」

「それでは失礼する」


 そう言って、彼は去っていった。……まずい事になったな。どうすればいいんだ?

 ……結局、俺一人で考えるのは難しそうだったので、クレアさんに相談することにした。俺は彼女のいる隠れ家に向かった。


「お邪魔します」

「あら、シン様。ようこそ」


 彼女は笑顔を浮かべて出迎えてくれた。


「突然押しかけてすみません」

「いえ、大丈夫ですよ。それよりも、どうかされたのですか?」

「実は相談したいことがありまして」

「何でしょう?」

「その前に、こちらをどうぞ」


 俺は彼女に飲み物を差し出した。


「ありがとうございます」


 彼女はカップを受け取ると、中身を口に含んだ。そして、「……美味しい」と呟いた後、再び俺に視線を向けた。


「それで、ご用件は何でしょうか?」

「はい、実は……」


 俺は先程の出来事について説明をした。


「……なるほど、そのような事が」

「はい。どうしたら良いものかと思いまして」

「そうですね……。私に一つ考えがあります」

「それは何でしょう?」

「その組織は恐らく『黒猫団』という名前なのでしょう?」

「はい、そうです」

「でしたら、その名前を変えてしまえば良いのです」

「名前を変える? 一体どうやって?」

「簡単ですよ。その組織の人間に『黒猫団』という名を使うのをやめて『シャム猫団』と名乗るように言えば良いのです」

「なるほど。確かに、その方法なら簡単に変えられそうですね」

「はい。それに、貴方がその組織の長に直接会って話せば、きっと分かってくれるはずです」

「そうでしょうか?」

「ええ、きっと」

「分かりました。そうしてみます」

「頑張ってくださいね」

「はい!」


 俺は元気良く返事をして部屋を出た。……よし、善は急げだ。早速『黒猫団』のアジトに向かうとするか!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る