第8話
「よし、全員揃ったな」
「はい」
「では出発しよう」
「分かりました」
馬車に乗り込むと、すぐに出発した。これからアジトに移動するのだ。
ちなみにこの馬は普通の馬ではなく、魔獣と呼ばれる生き物らしい。……ちなみに、御者をしているのは『黒猫団』の団員の一人、カミルという青年だ。彼は人間とエルフのハーフであり、魔法と弓が得意なのだという。ちなみに、もう一人の御者はアイラという女性で、こちらはドワーフと人間の混血である。ちなみに年齢は二十歳らしい。……ん? そういえば……
「ところで、貴方の名前を聞いてませんでしたね」
「ああ、そうだったな。俺の名前はベルドランだ。『黒猫団』の副団長をやってる」
「副団長ですか?」
「ああ、まあ肩書きだけだがな」
……そういえば、昨日兵士達がそんなことを言ってたな。確か『黒猫団』のリーダーは『仮面の男』と呼ばれている男で、彼が実質的なトップだとか何とか……。……まあ、俺には関係ない話だけどな。
「ところで、その『仮面の男』というのはどんな方なんですか?」
「どんなヤツか?」
……あれ? 反応が鈍い。聞かない方が良かったかな? 少し不安になっていると、ベルドランが口を開いた。
「一言で言うなら、『仮面の男』は無愛想な野郎だよ。それに奴はもう俺達のリーダーじゃない」
「無愛想?」
「ああ。あいつは必要最低限の言葉以外喋らねえんだ」
……なるほど。つまり、感情を表に出さないタイプなのか……。それにリーダーではない。……それなら別に問題無いな。俺は仮面の男に興味を無くした。
それから数時間後、俺たちは目的地に到着した。
「着きましたよ」
「ありがとうございます」
「いえいえ、仕事ですから」
そう言うと、カミルさんは去っていった。その後、俺は『黒猫団』のアジトへと足を踏み入れた。中に入ると、そこには様々な武器が置かれていた。……なるほど、これが『黒猫団』の装備か。確かに、どれもかなり使い込まれているようだ。……それにしても、本当に顔を隠してるんだな。俺は彼らの顔をじっと見つめてみた。すると、奥の部屋で一人の女性が姿を現した。どうやら彼女が『黒猫団』の今のリーダーのようだ。……随分と若いみたいだな。見た目は十四、五歳くらいだろうか?
「ようこそ『黒猫団』へ。私が『黒猫団』の長を務める『黒猫姫』ことクレアと申します」
『黒猫団』の長は女性だった。しかも、その名前が本名かどうか怪しい。何故なら彼女は『黒猫姫』と名乗ったからだ。……『黒猫姫』?……うーむ、よく分からないが……。とりあえず挨拶をしておこう。
「初めまして、俺はシンといいます」
「貴方がシン殿ですね」
「はい」
「貴方の活躍は聞き及んでおります。是非とも私達の力になっていただきたいのですが……」
「ええ、構いません」
「ありがとうございます」
「それで、早速ですが依頼の内容を聞かせてもらえませんか?」
「はい……。実は『黒猫団』は現在、ある組織に追われております」
「追われている?……一体どういうことです?」
「実は……」
……どうやら『黒猫団』はとある国で指名手配されている集団らしく、彼らは追っ手から逃れるために各地を転々と移動しながら生活しているのだという。……しかし、それも限界に近づいており、そろそろこの町にも居られなくなるかもしれないという話だった。
「そうなった場合、我々は別の場所に移動しなくてはなりません」
「なるほど……」
「そこで貴方に護衛を依頼したいと考えています」
「分かりました。引き受けましょう」
「本当ですか!?」
「ええ、構いません」
「ありがとうございます!」
彼女は嬉しそうに微笑んだ。……と、その時。
「おい! いるんだろう? 出て来い!」
突然、誰かの声が聞こえてきた。振り返るとそこには、大柄な男の姿があった。
「お前は……」
「久しぶりだな。シン・リューベック」
「……誰ですか?」
「忘れたとは言わせんぞ! 貴様に仲間を殺された『黒猫団』のリーダーだ!!」
……そうか、コイツが『黒猫団』の……ってことは、コイツが噂の『仮面の男』か!
「ほう、お前があの時の……」
「そうだ! ようやく見つけたぞ!!」
男は怒りに満ちた表情で俺を睨みつけている。……これは面倒なことになったな。どうしたものかと考えていると、突然男が剣を抜き放った。
「覚悟しろ!!」
男が剣を振り上げる。俺は咄嵯に飛び退いた。……と、次の瞬間。剣が振り下ろされ床が砕けた。
「避けたか……。だが、次は逃さんぞ!!」
男は再び剣を構えると俺に向かって駆け出した。そして、剣を振るってくる。俺はそれをかわすと、男に斬りかかった。だが男は剣で防ぐと、俺を押し返してきた。そして再び剣を打ち付けてくる。俺もそれに対抗するように剣を叩きつけた。
金属音が響き渡る中、男の剣が折れた。男は舌打ちをした後、腰に下げていた短剣を抜いて構えると、俺に襲いかかってきた。……が、その攻撃も俺に届くことは無かった。
「……くそ!」
男は悔しそうに叫ぶと、逃げて行った。その姿を見送ると、俺はため息をつく。そして、改めて『黒猫団』の長に向き直った。
「すみません。ウチの者がご迷惑をおかけしました」
「いえ、気にしないでください」
「そう言っていただけると助かります」
……さて、これで話は終わりかな? そう思い立ち去ろうとすると、彼女に声をかけられた。
「シン様」
「何でしょう?」
振り返りながら尋ねると、彼女は真剣な眼差しを浮かべていた。
「貴方の強さはよく分かりました。しかし、我々もこのまま引き下がるわけにはいきません」
「それは分かっています」
「いいえ、貴方は何も分かっていない」
……ん? 一体何の話だ?首を傾げていると、彼女は話を続けた。
「我々は命をかけて戦うつもりです。だから、もし仮に我々全員が命を落としたとしても貴方だけは生きて下さい」
「それは……」
「貴方は我々の希望なのです。どうかお願いします」
……ふぅ、どうやら彼女の決意は固いようだ。仕方ない、ここは俺も腹を決めるとするか。
「分かりました。ただし、条件があります」
「何でしょうか?」
「全員無事に帰ってきてください。それが条件です」
「……よろしいのですか?」
「ええ」
「……分かりました。約束いたしましょう」
こうして、俺たちは共に戦っていくことを誓った。
「……ところで、一つ気になることがあるので質問しても良いですか?」
「何でしょうか?」
「どうして『黒猫団』なんて名前にしたんですか?正直、あまりセンスがあるとは思えないのですが」
「……それは、私が付けた訳ではありませんから」
「……なるほど」
「それでは、私は仕事に戻りますね」
そう言い残し、彼女は部屋を出ていった。
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