第7話

 翌朝、俺は準備を整えて町を出た。目的地はもちろん『黒猫団』がいるという場所だ。


「この辺りで間違いないはずなんだけど……」


 俺は周囲を見渡した。特に変わったところはない。……あれ? おかしいな。ここに居るって話だったんだが……。……ん? 何か聞こえてくるな。……これは歌か?


「~♪」


 近づいてみると、そこにいたのは美しい少女だった。銀色の髪に青い瞳、白い肌に整った顔立ち。まるで人形のような美しさを持った彼女は、楽しげに歌いながら踊っていた。

 綺麗だな……。でも、一体何処から現れたんだろう? ……あっ! そうか! 彼女が噂の『黒猫団』か!


「ふぅ……」


 踊り終えた後、満足げに息をつく彼女に向かって歩いていく。


「あの、すみません」

「あら? あなたは……」

「突然申し訳ありません。実は貴方にお話が……」

「そうですか。……では、中で話しましょうか」

「え?」


 そう言うと、彼女は俺の手を引いて歩き出した。


「えっと……」

「大丈夫です。ついて来てください」


 彼女に言われるまま、中に入る。……と、そこには大勢の人達がいた。彼らは俺を見るなり驚いた表情を浮かべた後、一斉に駆け寄ってきた。


「シンさん!!」

「無事で良かった……」

「心配しましたよ!」


 口々に声をかけられる。……どうやら皆、俺のことを待っていたようだ。とりあえず事情を説明しておかないと。


「皆さん落ち着いてください!」


 ……だが俺の声も虚しく、騒ぎは大きくなっていく一方だ。このままじゃマズいな……。仕方ない、力づくで黙らせるしかなさそうだな。俺は剣に手をかけた。……と、その時。


「静かにしろ」


 低い声が響き渡ると同時に、騒いでいた者達が一瞬にして静まり返った。声の主は、他の誰よりも背が高く体格の良い男だ。鋭い目つきに尖った耳。そして、黒い鎧を身につけたその姿はまさに威圧感を放っている。男は俺の前に立つと、睨みつけるように見つめてきた。


「お前がシン・リューベックか?」

「はい、そうですが……」

「そうか……。お前が『三毛猫団』を一人で倒したっていう男か」

「はい、一応そう言われています」

「……ほう」


 男はニヤリと笑った。


「気に入ったぜ」


 ……はい? ……何言ってんだコイツ? なんか変なヤツが現れたぞ? そんなことを考えていると、男が口を開いた。


「おいお前ら! こいつが新しい仲間だ!」

「はあ!?」


 いきなり何を言っているんだ? 意味が分からず困惑していると、今度は後ろの方にいた少年が前に出た。


「初めましてシン様。僕は『黒猫団』のリーダーを務めている者です」


 リーダー? この子供が? ……いや、子供じゃないのか? ……見た目だけなら俺より年下に見えるけど、もしかしたら違うかもしれないし……。

 ……まあ、どっちでもいいか。それより気になるのは……


「あの、一つ質問しても良いですか?」

「はい、何でしょうか?」

「貴方はどうして顔を隠しているんですか?」

「え? ……それは……」


 少年は戸惑っている様子だ。


「教えていただいてもよろしいですか?」

「それは……」

「言えねぇってのか?」


 答えられないでいると、背後から声が響いて来た。振り返ると、先程の男がこちらへ向かって歩いてくる。そして、俺の目の前まで来ると口を開いた。


「俺達には、素顔を見せられねえ理由があるんだよ」

「それは?」

「それはだな……その……アレだ。……秘密だ」


 ……コイツは一体何なんだ? ……まあいいか。とにかく今はコイツらに付いて行くしかないだろうしな。そう考え、俺は彼らに同行することにした。


「分かりました。……では、これからよろしくお願いします」

「おう、任せとけ! 俺達がしっかり守ってやるから安心してくれ」

「よろしくお願いします」


 こうして俺は『黒猫団』のメンバーになった。

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