第十話 本番=祈祷

 今日は多くの人の協力で瑞は受け持っていた番組に復帰し、そして卒業する。

 本来ならば許されることがない舞台は天の父が調えてくれた。瑞のことを入社してからずっと見守ってくれていた上司が理解を示してくれた。番組スタッフも賛同してくれた。

 きっと、瑞のことを自分勝手なやつだと心に秘める人はいるかもしれないが、瑞が頭を下げ準備を整えた。

 奏も天の側につき、天が退院前に観るように誘導してくれているだろう。

 あとは瑞が想いを伝えるだけだった。

「おはようございます。キャスターの花芽瑞です」

 休職前と変わらない挨拶と休職していたことの謝罪を済ませると、ニュースを報じていき、バラエティのコーナーへ移っていく。

 瑞は出演者の様子を伺いながら、多くの情報を伝えた。

 そして、いよいよ瑞と関係するすベての人間の協力で作り上げられた舞台へ時間は近づいていく。

 最後のコーナーが過ぎた後、慌ただしくステージのセットが片づけられる。何もなくなり、瑞と単色の背景だけが映っている。

 瑞はCMが開けたことが伝えられると、一礼した。

「今日は特別に時間を設けていただきました」

 何も持たない状態で語りかける瑞はできる限り湿っぽいものにならないようにか笑顔だった。

「まずとつぜんお休みをいただきましたことを改めて謝罪いたします。申し訳ございません」

 しっかりと時間をかけて顔を上げ、言葉をつづける。

「お休みの原因は持病の悪化のためです。どうやら学生時代の不摂生が祟ったようで、この先もつきあっていく必要があるようです。しかし、この病気に名前はありません」

 笑顔を消し、カメラをしっかりと見つめる。それからもう一度口を開いた。

「病気には名前がありませんが、きっと多くの人が抱えている病気です。症状は息苦しさから始まり、胸痛、呼吸困難、失神へとつながり、お医者さまにかかっても原因がわからないと言われます。実際、精密検査をしても問題はありませんでした。そのまま不安を抱えながら生きていくとストレスが溜まってよけいに症状が悪化するのです。なのに、この病気は名前がありません」

 瑞は番組スタッフに合図を出す。

「今、視聴者の皆さまがご覧になっている写真は私の左半身についている痣です。とつぜん、肌をお見せし申し訳ございません。しかし、ぜひ知っていただきたいのです。あなたの強い想いを誰かが見ているのだと」

 もう一度、瑞は合図を出し、今度は写真を消してもらう。

「もう死んでしまうのかもしれないと思うことがあるでしょう。そして、その直感はきっと間違っていないのだと信じてしまうかもしれません。死の運命を受け入れる方も、いらっしゃるかもしれません。または周りの理解を得られずに諦めてしまうことだってあるのでしょう。

 しかし、あなたがなすことはまだなせていないはずです。

 私のこの痣を神さまが才能を授けてくださった証だと言ってくれた方がいます。その方も痣を抱えて、自分の理想を叶えようとしています。なのに、強靭な精神ゆえか、死を受け入れて夢を叶えられないかもしれないことも受け入れるのです。

 私はその人に生きていてほしい。どうすれば長く生きることができるのか、知っているかもしれない人に尋ね、その人を生かす方法を探しました。しかし、そんなものはなかった。

 それでも私は諦めることができません。自分がなしたい夢をどうして他の人に任せることができるでしょうか。私の夢は私だけのものであり、夢を叶えるために努力するのは私です。

 そして、神さまに認められた夢は今、潰えました。私の夢は、こんな感情的に想いを伝えるのではなく、どんなときも冷静に伝えるべきを伝えるアナウンサーでした。しかし、その夢を持つがゆえに人を救うことができないのであれば、そんな夢はまやかしの夢だった。私が本当にしたいことは、私が憧れたアナウンサーがしていたことは、祈りを伝えることだとようやく気づくことができました。

 ですから、最後に伝えさせてください」

「あなたの夢はあなたが叶えるものだ。死ぬことを受け入れるな」

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