第3話 異国から来たその男は、心が遠いとこにある

「何かあったのかな?」

 

 僕はそれを言って、少し後悔した。見ず知らずの人に今一番話したくないことを聞かれるのは、きっと物凄く辛いことだから。


「人の心配する前に、まずは自分の心配しろよ。そんな顔で心配されても、不安を煽られるだけだ」


 言われてしまった。でも確かにそうだ。僕自身が今酷く落ち込んでいるのに、どうやって他人を助けてやれるだろうか。


「…………」


「…………」


 沈黙が続く。こんな居心地の悪い微妙な空気感なのに、焦ることもなくただただ気が落ちていくのは、それだけ傷が深刻なのだろうか。


「なんで話しかけてきた」


 沈黙を破り、男はそんなことを聞いてきた。


「困ってる人がいたから。……いや違う。今の僕と同じ様な感じがしたから、かな」


「そうか」


「うん、そうだよ。僕からも質問させてよ。君はどこからきたの?」


 一瞬、男は怪訝そうな顔をした。自分のことを詮索されるのが嫌だったのだろうか。


「……外国」


「やっぱり。見たことのない格好をしてふと思ったんだ。ねえ、君の故郷はどんなところなの?」


「あんま深掘りしてくんじゃねぇよ」


「ご、ごめん」


 縮み上がるような形相で睨まれた。本当、何があればそんな目ができるようになるんだろうか。


「あ、よかったらこの街を案内しようか。と言ってももう夜が来るけど。夕食と宿なら紹介できるよ」


「……金ねえよ」


「そうなのかい? なら僕が出そう」


「なんでそこまでする。名前も知らない、見ず知らずの人間に。なんか企んでんじゃねえだろうな」


 この男は全く僕を信用していないみたいだ。だが恐らく僕が信用できないとかではないと思う。人が信じられない、の方だろう。


「僕も今日すごく嫌なことがあったから、見ず知らずの旅人の案内でもしてちょっとでも忘れたいんだよ」

 男は少しの間考えた。そして。


「……名前は?」


「僕はユーリだ。君は?」

 

「……凌牙。鬼頭凌牙だ」


 名前を教えてくれた。心はまだ遠く感じるけど。


「じゃあリョーガ。行こっか」


「ああ。よろしく」


 物凄く疑心暗鬼な様子だが、リョーガは僕についてきてくれることになった。


 

 


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