第2話 独りの俺にあいつが初めて話しかけてきた日
この世界はクソだ。ゴミだ。最低最悪だ。
俺やお袋に暴力を振るっていた親父もクソだ。お袋の稼いだ金をパチンコに使い、負けたら腹いせに俺らを殴る、性根の腐ったやつだった。だから15の時、殺した。
家を出てから、俺は都会の掃き溜めみたいなところで過ごした。もう1年経つ。
「なあ、凌牙《りょうが》。流石にまずいんじゃねぇか?」
「そうだぜ。今回は相手が悪すぎる」
その生活で、俺は学んだ。
この世界はクソだ。だが簡単な構造だ。力だ、暴力がすべてなんだ。
クソ野郎を殴り殺した時、家を出てから暴力で無差別に何もかも奪った時、俺は悟った。
「なあ、聞いてんのか?」
「うるせえ。腰抜けはすっこんでろ」
「そう言う問題じゃねぇって! 相手はヤクザだぞ?」
「関係ねぇよ。俺はあいつらが許せねぇだけだ」
「そりゃあ、あいつらのやり方は汚ねぇとは思うさ。身寄り無し、将来もろくなもんじゃない俺たちだからって危ない仕事させたり扱いが舐めたりするけどよ。勝てないもんは勝てないんだぞ」
「……もういい。お前らが来なくても俺は一人で行く」
「あっ、おい!」
抗うことをやめた腰抜け共が。いい、俺は一人でやってやる。元から独りだしな。
事務所内部までは簡単に入り込めた。何人か人がいたが、全部顔面を潰した。
「な、なんだテメェ!」
事務所内には男が4人と、組長ぽいのが中央奥。四人とも内ポケットに膨らみが見える。
最初の踏み込みで右のやつを仕留める。その勢いでもう一人。
左から発砲音。けど外した。その隙にそいつを殺る。最期にもう一人。
「あとはあんただけだ」
ほら、暴力があるから、あいつらが勝てないって言ってた奴らもこうやってビビってる。
「お、お前。鬼頭凌牙だな。お前の悪名は俺たちでも知っている」
「だったらなんだってんだよ」
「お前、お前らガキどもの扱いや仕事に不満があるんだろ? 俺を見逃せば、改善してやろう」
「あんたを消した方が早いだろ」
「ぐっ。……ふん、そんな口ももう叩けん」
「何?」
背後から発砲音。背中から全身に熱さが広がる。まさか、撃た……れた?
「所詮ガキよ。ゴミはゴミらしく死んでろ」
撃たれた。けど少しだけ、少しの間だけ体が動く。
「っああ!」
一歩前へ。せめてこのクソジジイだけは殺す。じゃなきゃ死にきれねえ!
俺の拳はやつに届いた。いいのが入った。頭蓋骨を砕いた感触がした。そこで俺の意識は切れた。
次に目が覚めた時、俺は硬い何かに座っていた。背後から水の音。振り返ると噴水があった。よくわからんが、俺は噴水を囲む、座るのに丁度いい縁に座っていたみたいだ。
辺りを見渡す。見覚えのない景色。ビルが一つもない、そして俺の家や住んでた街では見たことない建物ばかりだ。きっと外国だ。ヨーロッパって国だ、学校行ってなくても知ってる。でもなんで俺はヨーロッパにいるんだ。
「あの、大丈夫ですか?」
誰かが話しかけてきた。振り返ると男がいた。背が高く顔の整った優男だ。金髪に青い目をしてふからやっぱりここはヨーロッパだ。
「……誰だよ、お前。此処は何処だ」
なんだこいつ。なんで顔してやがる。知らない人に話しかける時の顔じゃない。目が死んでる、絶望のどん底に叩き落とされたみたいな顔。
「……あの」
その顔が、まるで俺の心を見てるみたいで、可笑しかった。
「お前、ひでぇ顔してんな」
その男は死んだ目のまま、無理やり作ったような笑顔を俺に向ける。
「貴方もですよ」
そいつは優しく、だが最悪なほど暗い声で返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます