第13話 強くなんてなくていい
「どうした?
クラスでも、頭脳明晰な真壁が、神妙な顔をしている。
「俺は…強くなきゃ…いけないんだ…立ち止まってる場合ではないんだ」
「は?」
昨日の全国模試で、どうやら、芳しくない結果が出たらしかった。
「こんなことで、親をがっかりさせるわけにはいかなんだよ!」
そう言うと、ダン!と机を叩いた。
クラス中が、真壁を見た。その視線に、また、真壁の機嫌が悪くなる。
「なんでだよ!あんなに勉強したのに!俺は、俺は…完璧じゃないといけないんだ!!」
これは、重症だ、と俺は思った。そして、俺の頭に浮かんだ解決策は、一つしかなかった。逢わせる人が、逢わせるべき人がいる。そう、思った。
「なぁ、真壁、お前、今日放課後、30分でいい。付き合えよ」
「は?なんでだ」
「なんでもいいだろう」
「良くない!!俺に、立ち止まって良い時間など無いんだ!!」
重症だ…と、俺すら思った。
「いいから。俺の家に来い」
「…30分だぞ!?」
「一縷さん、度々で、申し訳ないんだけど、こいつの話、聞いてやってくんない?」
「おかえりなさいませ。櫂おぼっちゃま。そちらのお方は?」
「クラスメイトの真壁。ほら、真壁。この人が、お前に逢わせたかった人だよ」
「…こんな、メイドなんかに、俺の何が解る…」
「…。とりあえず、おぼっちゃまのお部屋にお通ししてよろしいですか?」
「うん。ごめんね。一縷さん」
「いいえ。とんでもございません。真壁さん、どうぞゆっくなさっていってくださいね」
「いや、30分で帰る」
「…そう、ですか」
「お茶をお持ちしました」
そう言って、一縷さんは、15分たっぷり使て、紅茶を煎れてくれた。
「時間がないと言っただろう!!」
「真壁さん、強さとは、立ち止まらない、ということではありません。時間に追われ、目に見えない恐怖に追われ、気付かないうちに、走って、走って、そこに待っているのは、恐らく、幸せでも、自由でも、叶えようとしていた夢、でもありません。きっと、ただの崖、ただの壁に相違ないでしょう。袋小路と言うものです。本当はあったはずの、幾つもに枝分かれしていた道を、一本道だど、思い込み、弱いことを認めず、認められず、急げば急ぐほど、人は、道を見誤ります。自分を…見誤ります。『自分は強いのだから、間違うはずがない』それこそ、弱さがもたらす、間違いです。間違ってはいけない、などと、思ってはいませんか?」
「思うに決まってる!!俺は、警察官僚になるんだ!!こんな…高校でなんて、立ち止まってる場合じゃないんだ!!」
真壁は、一縷さんに、強く訴える。
「人は、強くも弱くも、間違ってしまう生き物なのです。ならば、強さを捨てる方が、よほど、楽ではありませんか?『自分は強くなくてはならない』そう思っていらっしゃる方の方が、失敗を恐れ、そして、いざ、失敗すると、絶望すら覚えてしまうものです。『こんなはずではなかった…』と自分を責めるのです。それは、急ぐからです。急いでしまったからです。人生はマラソンだ、と言う方がいらっしゃいます。立ち止まらず、走り続けることが大切なんだと…。ならば、わたくしはこう、申し上げることにいたします。『人生は道草だ。歩いても良いし、立ち止まっても良い。むしろ、草むらの中で、寝転がって休んでも良い。それが、人の生きる道、なのだ』と。わたくしは、そう考えます」
「……そう…なのか?俺は…立ち止まって良いのか?」
「はい。急がないでください。ご自分を、追い詰めないでください。真壁さんの人生は、思うよりずっと、自由なものなのですよ」
真壁は、2時間、一縷さんと、話し合いながら、思いっきり笑って、帰って行った。
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