第12話 悲しむということ

俺のクラスには、よく笑うやつがいる。と言うより、笑っている所しか見たことがない。


その名は、緑川佳みどりかわけい。女子だ。


こいつは、クラスの中でも、明るくて、いつも浮かれれてて、『悩みなんてないでしょ?』と、クラス中の奴らに言われている。


かく言う俺も、そう思っていた一人だ。


しかし、ある日、突然、彼女は笑わなくなった。クラス中、何かのドッキリだとか、どうせ、からかっているだけだろう…と、いつも通りに接し、いつも通りに話しかけた。


しかし、それから、3日経っても、1週間経っても、彼女は、笑うことは無かった。両親は、心配し、精神病院にまで連れて行ったが、原因は、よくわからなかった。


と言う言葉で、一応、処理されたらしい。


でも、俺は、彼女を、緑川佳を、一縷さんの元へ、連れてゆく事にした。




「ただいまー」


「おかえりなさいませ。櫂おぼっちゃま」


「あ、一縷さん。また…で、悪いんだけど、ちょっと、こいつの話、聞いてやってくれくれない?」


「あたしは大丈夫だって言ってるじゃん…。なんで、こんな人に自分のこと話さなきゃいけないの?」


「大丈夫だ。お前が、また笑えるかも知れない」


渋々と言った感じで、彼女は、通された俺の部屋で、一縷さんの煎れたカモミールを飲みながら、一縷さんの口が開くのを待った。


あくまでも、自分から何があって、笑わなくなったのか、話す気はないらしい。





「何か…悲しいことがおありになったのですね?」


「へ?」


「そうでは…ないですか?」


「………」


彼女は、押し黙った。


「そう…ですね。例えば、突然、笑う意味が分からなくなったとか」


「!!な、なんで、分かるの?」


「やはり、そうでしたか…。?」


「…はい。でも、どうして、わらえなくなったのか…」


「では、人のことも、わからなくなったのでっは?」


「…はい。誰にどう思われてるか、もう…分からなくなって…」


緑川は、泣き出した。


「そうですか…。それならば、涙、枯れ果てるまで泣く事をお勧めいたします」


「泣いたって…何にも…ならないでしょ…?」


「そんなことはありませんよ?悲しみを心の中にためてはなりません。決して、いい結果には結びつきません。心に悲しみをためてしまえば、…ため続けてしまえば、今の緑川さんのように、笑うことも出来なくなることでしょう。感情で、一番大切なのは、『悲しみ』。自分が感じることも、他人が感じているな、と感じることも、とても大切なことなのです。悲しみは、痛みを知ること。痛みを知ることは、他人を知ること。なぜ、その人は泣いているのか、何にその人は傷ついているのか、それらを知ることにより、その人の性格が解ります。図太い人だな。面白い人だな。繊細な人だな。変わった人だな。素敵な人だな…。…きっと、そう言ったことが解ることでしょう。それを知ることで、その人に対して、どう接するのが良いのか、知らず知らず、身についてくるものです。そう言う人には、相手も接しやすいと感じ、コミュニケーションが効率よくとれるようになると、わたくしは考えます」


「私…また、笑えるかな…?」


「はい。笑えます。泣いて、泣いて、泣いて、もう、泣くのなんてばからしい。と、思えるまで泣けば…」


「ふふっ。そうだね…」


(あ…泣いてるけど…笑った…)


俺は、久しぶりに見た、緑川の笑顔に、何となく、ホッとした。

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