第11話 星の命

「一縷さん!星!めっちゃ奇麗だよ!今日はなんとか流星群なんだってさ!」


俺は、小学生のようにはしゃいだ。俺は、昔から、天体観測がすきだった。勿論、家は金持ちだったから、天体望遠鏡を買ってもらい、小学校の頃からそれを覗き込んでは、はしゃいでいた。


「はい。とても、綺麗ですね…」


「………?」


一縷さんが、少し、元気がない。


「どうしたの?一縷さん。星、嫌い?」


「いいえ。そんなことはございません。只、少し、星が可哀想で…」


「…星が…可哀想?」


なんのことだか、訳が分からない。しかし、その後の、一縷さんの連ねられる言葉の重みに、俺は、星を、『可哀想』と言った一縷さんの気持ちを、少し、察することができた。




「空には、無数の星があります。そして、そのどれもに、名前が付けられ、名をつけた人は、誇らしげにするのです。それは、その人のものではないのに…。いつか、その星は、命、果ててゆくと言うのに…。まるで、星の命は、『永遠』のように人は言いますが、それは、人の強欲の塊です」


「まぁ、星は、いつか、なくなるからね」


「はい。しかし、人間はどうでしょう?」


「え?」


「人間は、人間は亡くなった後、『天国』と言うかりそめの国を造り、それこそ、人の命を、『永遠』に変えたのです。しかし、流れ星は、死んでゆくと言うのに、人間は、その命の冥福を祈ることはしません。しかも、あろうことか、人間は、死んでゆく、流れて行く星々に、願いを込めるのです。どこへ消えるかも、どんな想いで消えてゆくのかも、知る者もいないのに…。人間とは、つくづく勝手な生き物だと、お想いになりませんか?人の死は、悲しみ、その悲しみを癒す為に、『天国』などと言う空想の世界まで想像するのに、星の命は尽きるのは、喜んで、願いを込めるのでございますよ?同じように、人間も、星々も、名前を持ち、同じ、寿命を持ちます。それなのに…星々には仕打ちが過ぎるとはお想いになりませんか?人間の身勝手さが、とてもよく表れている、風習だと、わたくしは考えます」




「…星の…命…か…」


「はい。星の命が終わる時、悲しんでくれる人は、誰もいないのです」


「じゃあ、俺が、悲しむよ。どっか、消えてく、星々が、星の『天国』に逝けるように、俺が祈るよ。それで、良い?」


「はい。きっと、星たちは、心静かに、消えてゆくことが、出来るかも知れませんね」


「なんで、星の命について、そんな風に思いだしたの?」


「何故でしょうか…。わたくしにも、よく解りません。ですが、幼い頃、流れ星に、願いごとをしなさい、と両親に言われた時、思ったのでございます。この星は、願いを、叶えてもらったのだろうか?…と。幼かったわたくしには、大きな疑問でした。それが、大人になり、やはり、星々は、救済されていなかったのだ…と思ったのでございます。ですから、わたくしくらい、星に祈りを…と思ったのが、最初でございます」


「一縷さんらしいね」


「…と、おっしゃいますと?」


「優しい」


「…勿体ないお言葉…。ありがとうございます。櫂おぼっちゃま」


「う~ん。おぼっちゃまが無ければ、もっといいんだけどなぁ…」


「そうは参りません。櫂おぼっちゃまは、わたくしのご主人様の大切なご子息。失礼があっては、旦那さまや、奥様に、どんな顔をしてよいやら…」


「はいはい。ありがとう。一縷さん」


「いいえ。櫂おぼっちゃま」


「………」





その日の夜、僕は、流れ星にこう、祈った。


「安らかに、眠ってください…」

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