第10話 白紙

「ねぇ…一縷さん、勉強して、何か、変わるんだろうか…?」


俺は、急に、一縷さんにそんな言葉を投げかけた。


「何か、ございましたか?櫂おぼっちゃま」


「んー…俺じゃないんだけど…、なんか、友也ともやの奴が、おかしなこと言うから…」


「友也さん…。櫂おぼっちゃまの小学校からのお友達でございますね?」


「うん。あいつ、今、なんか情緒不安定なんだよ。何だか知らんが…」


「情緒…不安定とおっしゃいますと?」


「俺には、『原動力がもうない…』とか言い出して…」


「そう…でございますか…」


「ねぇ、一縷さん、友也、連れてきてもいい?」


「はい。わたくしは、一向にかまいませんが…。わたくしに、何ことがありますでしょうか?」


「いいの。いつもの、一縷さんでいて。それで、十分」


「はい。かしこまりました」




―土曜日―


「こんにちは」


「友也さん。いらっしゃいませ。お久しぶりでございますね」


「うん。一縷さん、相変わらず綺麗だね」


「友也さん、そんな風にお世辞をおっしゃられるような、男性におなりになられたのですね。なんだか、嬉しゅうございます」


「あはは。なんか、時代劇みたい。一縷さん」


「失礼いたしました…」


「いやいや!褒めてるんだって!!」


「………」


「ん?何?」


「確かに、何だか、友也さん、情緒不安定のご様子ですね」


「だろ?」


「何言ってんの!?2人とも!!俺は何処も変わんないって!」




そして、一縷さんは、いきなり、核心をつく話を始めた。


「人は、空を飛ぶのを諦めませんでした。翼など持ち合わせていなかったのに…。人の、と言うものは、すべて、何かを、と言う想いからくるものなのでしょう。人は、月へも行きました。本当に、地球うが丸いのか、青いのか、月に、降り立つことが出来るのか、それを確かめる為に」


友也は、ぼーっと、その話を聞いている。


「飛行機は、今や、なくてはならぬものとなり、宇宙旅行なるものも可能となりました。そこで、でございます。最初からすべてを投げやりに考えたり、『どうせ』『そんなの』『何したって変わらない』などと、決めつけ、挑戦することからすら、匙を投げてはいませんか?努力は、報われないことばかりです。ですが、立ち上がること、頑張ろうとすることさえしなければ、と言う結果すら、残らないのです。ご自分の履歴書を、ご自分で白紙にしてどうなさるんですか?良いではありませんか。例えばですが、『特技バスケッとボール』と言う文字しか履歴書に書くことが無くても、バスケットボール部に入ろうと努力した結果は、そこにちゃんと記されます。諦めてばかりでは、履歴書どころか、人生すら、白紙になってしまうかも知れない…。わたくしはそう考えます」




「なぁ、お前(櫂)、一縷さんに、俺が中退しようとしてること、言ったの?」


「え!?お前、中退する気だったの!?」


「…やっぱ、知らなかったか…。さすが、一縷さんだな…。俺な…バスケ部のレギュラーから外されたんだ…。もう、バスケ出来ないなら、辞めちゃおっかな…って、軽々しく思ってた。でも、レギュラーが全てじゃないよな…」


「そうですよ。友也さん。貴方は、バスケットボールが心底、お好きなはず。それは、存じているつもりです。どうか、ご自分の人生を、バスケットボールを失くしたことだけで、白紙になさらないでください」


「…うん。頑張るよ…」


友也は、少し、鼻声になって、そう、呟いた―――…。

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