第8話 逃げること

俺は、中巳頽に言われ、部屋から、出た。



「どうぞ。お話が出来る状態になったら、始めてください」


中巳頽は、ひたすら泣いていた。


「…逃げちゃ…いけないんでしょう?…逃げちゃ…いけないから…私、もう…死ぬしか…」


「もしも、間違っていたら、大変模試訳ございません。わたくしの想像で、申し上げさせていただきますが、中巳頽さんは、にあって、いらっしゃるのではないのですか?」


「!」


「そう…なのですね?」


「もう…半年になります。シカトから、始まって、靴を隠されたり、教科書を破られたり、ス…スカートを破られたり…。もう…耐えきれません!!」


そう言うと、中巳頽は大泣きし始めた。その中巳頽を、そっと、一縷さんは包み込み、こう言った。


「嫌なことから逃げるのは、簡単です。でも、逃げて良い時だってあるのです。例えば、学校でいじめを受けているのであれば、そんなところからは、さっさと、逃げてしまえばよろしいのです。そのいじめを、回避できない、生徒、教師、そんな役立たずを、信じていても、時間と、心の傷の無駄です」


「でも…、止めたら…勉強が…」


「そんなものは、なんの障害にもなりません。今の時代には、定時制、通信制、大学検定、など、様々なカリキュラムが用意されています。それに、このデジタル社会。パソコン一つで、大会社を設立した中卒の方だって、いらっしゃるのです。人生、学校…特に、全日制が全てではありません。勿論、人間関係の構築、時代の進行、など、身に着けてゆかなければいけないものは、多々あります。しかし、そんなものは、定時制、通信制、大検、どれでも、身に着けることは可能です。もしかしたら、そこには、同じような傷を持ってして、そこに居らっしゃる方もおいででしょう。その方々と必要最低限の人間関係を構築することは、十分です。社会人になってからだって、それらを遅いと呼ぶことは、不条理です」


「私も…逃げて良いの?」


「はい。良いんです。人に自殺を考えさせるような人たちと一緒にいても、先にも申し上げましたが、時間の無駄。人生の無駄です。人を自殺に追い込むような人たちといつまでもいる必要はありません。そんな、傷を負ってまで…、そんな、想いまでして…。中巳頽さん、どうか、頑張るべき道を、見誤らないでください。わたくしは、そう考えます」


「……逃げて…良いんだ…。もう…苦しまなくて…良いんだ…。そう言う…こと、ですよね?一縷さん…」


「はい。そんなに、我慢しないでください。貴女の道は、一つでは、ありません。たくさん、笑える場所を、探してください。大丈夫。必ず、貴女の居場所は、苦しまず、ありのままでいられる場所が、あるはずです」


「…り…がとう…ございます…。ありがとうございます…」


「一つ、秘密を教えますね。誰にも、内緒ですよ?」


「…え?…あ、はい」


「わたくしも、大検で、大学に進みました」


「え!?」


「ふふふ…。道は、一つでは、ありませんよ?」


「…はい!!」




ガチャリ…と、静かに、俺の部屋のドアが開いた。リビングに降りて来た、中巳頽は、何だか、俺が手を引っ張って来た時とは、まるで違う人間のように、晴れやかな表状かおをしていた。



「院瀬見くん。私、学校、辞めることにしたよ。一縷さんに、逢わせてくれてありがとう…」


「辞める!?」


「櫂ぼっちゃま、大丈夫です。中巳頽さんの、新しい、一歩だと思って、おぼっちゃまも、祝福して差し上げてください」


二人は、笑顔を交わし、俺にそう告げた。


でも、一縷さんのことだ。決して、間違ったことは、言っていない。


俺には、そんな、確信だけは、あったんだ―――…。

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