第7話 自殺をしてはいけないわけ

「何してんの?」


俺は、同じクラスの、中巳頽沙織なかみでさおりが、体育倉庫で、カッターを右腕に持ち、左手を切り刻んでいる現場に居合わせた。


「馬鹿か!お前!何してんだよ!?」




その日、俺は、体育をさぼった罰として、体育倉庫の片づけをさせられていた。そして、その現場に出くわしたのだ…。




嫌がる、中巳頽を、俺は、一縷さんの元へ連れて行った。


中巳頽の手をぐいぐい引っ張って、俺は、血の出ている左手に、ハンカチを巻いて、ひたすら家に向かって歩いた。


「痛い!痛いよ!院瀬見くん!」


「うるせー!お前がつけた傷だろう!!」




「ただいま!一縷さん!いる!?」


「はい。櫂おぼっちゃま。お帰りな…。…。」


ハンカチで巻かれた中巳頽の左手首を見て、一縷さんは、すべてを察したようだった。




「取り合えず、これで、大丈夫でしょう。傷は深くはありません。傷は…残ってしまうかも知れませんが…」


「…私なんて…」


そう、中巳頽が言いかけた時、一縷さんが、キレた。


「中巳頽さん、自分が死んでも、悲しむ人はいない、もしも、そんなお考えをお持ちでいらっしゃるのであれば、わたくしは、あなたの頬をひっぱたきます!人は、決して一人では生きていけない生き物です。育ててくれたご両親の愛情が、その方の愛が、まったく伝わっていなかった、などと言うはずは、絶対にないはず。ご友人だって、喧嘩ばかりしてきた友人だけではなかったはず。そうではありませんか?」


「………」


「中巳頽さんには、お友達が、お一人もいらっしゃらないのですか?」


「………」


「同じように笑い、同じように泣き、同じだけの長さを生きて来た仲のご友人が、いらっしゃるはず。もしも、貴女が、突然、ご両親を自殺で亡くし、ご友人を自殺で亡くし、一人になったら、生きてゆけますか?ご自分を責めずにいられますか?何も出来なかったと、後悔に苛まれない、そう、言い切れますか?」


「言い…切れない…」


「ですよね…。深く関わった人であれ、そうでなかれ、貴女が、この世界で生きていることは、間違いようのない事実。貴女が生きている以上、命、尽きるまで、その命を、まっとうしなければなりません。これは、例え、国が違っても、この世界で、この、世界中で、唯一、統一された決め事なのだと、わたくしは考えます」


「私なんかでも…生きてて良いのかな?」


「生きていなければ、いけないのです」


「生きていなきゃ…いけないの?」


質問が、変わった。


「辛いことが…おありなのですね?」


「………」


中巳頽は、押し黙った。


中巳頽が、何故、手首を切ったのか、それには、ちゃんとした、理由があった。


その理由さえ、この時、一縷さんは、解決して見せるのだ。

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