第6話 なきたいとき
なぜだろうか?俺の家には、最近、よく、学校の奴らがやってくる。
『なぜ?』その問いは、愚問かも知れない。
そう。一縷さんに会いに、やってくるのだ。
その日もまた、院瀬見家に、一人の訪問者があった。クラスでも、明るくて、存在感たっぷりの、一見なんの悩みもなさそうな汰ノ
「院瀬見、あんたんとこの、メイドさん、凄い悩み事…聞いてくれるって…本当?」
そんな噂を流した覚えは、一切なかったが、もはや、有名な事実として、明確に知られていた。
「なんだ、汰ノ実、お前みたいなやつでも悩みなんてあんの?」
俺は、あっけらかんと、そう言った。
「…いや…その…」
いつもは見ない、真剣な顔をしている。これは、かなり重症だ…それは、こんな俺にも解った。
「良いぜ。一縷さんに頼んでやる。時間、とってくれって」
「本当?ありがとう。院瀬見」
そして、汰ノ実は、普通の笑顔に戻って、俺の席から離れていった。
(あいつが…悩み?なんのだ?)
俺には、全く、予想できなかった。
「ただいまー」
「おかえりなさいませ。櫂おぼっちゃま」
「こ、こんにちは…」
「あら。可愛らしい方ですね。そんなに緊張されて、何かあったのですか?」
一縷さん…鋭い…。と、俺は思った。こいつが、一縷さんに相談したがっていることは、勿論、一縷さんは、まだ知らないのだから…。
「実はさー、こいつ、汰ノ実って言うんだけど、一縷さんに相談したいことがあるんだって」
「ご相談…。わたくしに務まることでしょうか?」
「うん。一縷さんなら、大丈夫だと思う」
「そうですか。では、すぐに、お茶のご準備をしてまいります。おぼっちゃまのお部屋でよろしいですか?」
「うん」
「では、すぐに」
コンコン。
「失礼してもよろしいですか?」
「いいよー」
「どうぞ。オレンジペコです。お口に合うとよろしいのですが…」
「あ、ありがとうございます」
「そして、ご相談…というのは?」
「…私…。1人になるのが怖いんです!!もう、怖くて…怖くて…!!」
たった、その一言を言い終えると、汰ノ実は泣き出した。
俺は、びっくりして、ベッドから、飛び起きて、ソワソワするしかなかった。が…、
一縷さんは違った。
「汰ノ実さん、人は、一人になるのが怖いのではありません。人は、自分を肯定して欲しいのです。自分が生きている価値のある人間なのか、社会に必要としてもらえているのか、そして、中には、友達さえ、友達を友達と信じきれないでおられる方もいるでしょう。それは、友達を信じられないのではなく、自分に自信が無いのです。だから、人は、人の前で笑います」
もう、汰ノ実の目からは、涙が流れていた。
「例え、その方が、悲しい時でも、周りが楽しくしているのならば、その方は笑うのでしょう。“泣いたら、こんなところで泣いたら、変に思われる。変な人と思われる”―――…と。ですが、それは、誰もが心に抱く孤独。絶対と言う言葉を言葉を使うことは出来ませんんが、恐らくは、“どうしてこんな時に泣きたくなるんだろう?”と言った、ご経験が多分の方におありのはず。そう。この世界に生きるほとんどの人間に。だから、怖がる必要などないのです。皆様、大人になって泣いた事など一度もない…、などとおっしゃる方は、いはいないでしょうから。良いのです。人前で泣けないのなら、一人でわんさか、泣けばいいのです。そのうち、その心を読み取るように、包んでくださる方が、現れる…。わたくしはそう考えます」
「私…変じゃないかな?だって…お昼ご飯を食べている時に…泣きたくなるんです!みんな、笑って…私だって、笑って…。なのに…」
「大丈夫です。わたくしも、こっそり、泣いております。理由など、解りませんがね」
「理由…なくても、泣いて良いの?」
「はい。良いのです」
汰ノ実は、しばらく、一縷さんの腕の中で泣きじゃくると、笑顔になって、帰って行った。
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