第4話 「時間」は平等。そうだろうか。
夏休みが終わる5日目。
俺は、こんなシリアスな話になるとも思わず、そして、自分の浅はかな考えを、一縷さんに悔い改めさせられる一日となった。
「あーあ…夏休みもあと五日かー…」
「ですが、もう宿題の方は終わったではありませんか。櫂おぼっちゃま」
「だねー。全部一縷さんのおかげだけど…」
「とんでもございません。櫂おぼっちゃまの頭脳がよろしいからですよ」
一縷さんは、今日も、ニコニコして、俺の部屋を掃除してくれている。
そんな時だった。
「まー…あと五日で夏休み終わっちゃうけど、時間だけは、人類みんな平等だからねー。俺が夏休み終われば、倭たちも終わる訳で…。仕方ないねー」
「…………」
さっきまで、せっせと作業をこなしていた、一縷さんの手が、ピタッと止まった。
「?どうしたの?一縷さん」
「……そうでしょうか?」
「へ?何が?」
「時間だけは、この世に生まれた人間に、平等に、与えられたものだ、と人は言いますが、果たして、本当にそうなのでしょうか?」
「…そうじゃ…ないの?」
俺は、よく解らなかった。だって、時間は、本当に誰にだって平等で、過ぎてくスピードも、刻まれる秒針も、一日24時間、と言う決められた時間。その中で、すべての人間が、動いている。これを、平等と言わずして、何と呼べばいいのだろう?
「確かに、時間は規則正しく刻まれてゆきます。ですが、生まれてから死ぬまでの時間は、必ずしも『平等』とは呼べないのではないでしょうか?」
「ど…どういうこと?」
「なぜなら、この世界には、世界大戦を二度、行った上、まだ、性懲りもなく『戦争』などと言うバカげたことを続ける国、大人が存在するからです」
一縷さんは、少し手を震わせ、怒りを露にしている。いつも冷静沈着な一縷さんに、こんな一面があるなんて…、俺は、今日、この日まで知らなかった。
「わたくしたちのように、『一見は』としておきますが、平和な先進国では、ほぼ、生まれた子供は食事をとり、自由に遊び、家もあり、家族もいます」
「…俺は…そうだよな…」
「勿論。わたくしもです…。ですから、いたたまれないのです。戦争の起きている国では、五歳まで生き延びられるか…、それすら危ぶまれる子供たちであふれているのです。そんな戦争大国の国に生まれた子供たちの時計は、一心不乱に進んでゆきます。『死』と言う、タイムリミットへと…」
「………」
俺は、押し黙るしかなかった。一縷さんは、只、頭いいだけの人じゃない。色んな事を学び、色んなことを考え、色んなことに疑問を持ち、色んな事に心を痛めているのだ…と。
「信じられますか?櫂おぼっちゃま…」
「え…?」
「食べるものも、家も、着る服さえなく、親は出稼ぎで昼はまだよちよち歩きの子供が、そこから動けぬよう、両親から、脚に鎖を縛られる子供も存在するのです」
「!!!」
俺は、心臓が止まるかと思った。何かの間違いでいて欲しかった。こんな風に、寝転がって、一縷さんの仕事姿を見ながら、ポリポリポテチを食べている…。そんな俺に、『時間は誰にでも平等だ』なんて、言う資格はなかった。
「それでも、櫂おぼっちゃまは、『時間は誰しもに平等だ』とおっしゃることが出来ますか?わたくしには…、口が裂けても言えぬ言葉でございます…」
「………」
「!櫂おぼっちゃま!?」
俺は、泣いていた。
「大丈夫でございますか!?わたくしが余計なことを申し上げたせいで…。なんとお詫びを申し上げたらよいか…!」
「…がう…」
「え…?」
「違うんだ…。俺、自分が恥ずかしくて…。俺、なんか、変われるかな?もう…冷たい人間に染まってる気がする…。一縷さんみたいな…あったかい人とは…違うんだ…」
「そんな事はありません。そうして、涙を流されていらっしゃる、櫂おぼっちゃまは、十分、心の温かいお方です…。涙を、拭いてください…」
そいうと、一縷さんは、綺麗にアイロンがけされたハンカチを貸してくれた…。
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