第2章 広がる世界

第16話 来訪

 ある日の午後、ついに鳥の使いで知らされていたふたりが訪ねてきた。


 家のみんなで藁の小物を作っていると、ただいまーっと表のほうから声が聞こえた。「アクベンスとハマルね」とシェアトが声の主を告げると、みんなで迎えに出た。

 そこには背が高いスラッとした若者と、ナシラと同じくらいの身長の子どもが、ふたりとも何故か泥だらけの格好で立っている。


「久しぶりだね。ここは相変わらず、のどかないい土地だよね。そうそうここに来る途中でね、そこの川で釣りしてきたんだよ。親切な人がいてねー、釣りしてたの見てたら、良かったらどうぞって釣竿と餌を貸してくれてね、久しぶりにこの川で釣りしたけど、やっぱりここはよく釣れるねー。そんなに長い時間いたわけじゃないんだけど、ほらこれ釣れた魚。結構釣れたでしょ? 今日の夕飯にでもどうかな? シェアト、ミラク、ルクバト、みんな元気にしてた? ルクバトはまた体格が良くなったんじゃない? 腕の筋肉がさらについてるね。あ、もしかしてこっちの三人が今年誕生した子達かな? まだ五歳だもんね。小さくてかわいいね! みんな名前はなんていうの? おお! ナシラじゃないか! 元気だったかい? ほらハマルもいるよ。リリーは今、北方の調査に行っていてね、今回は残念ながら一緒に来られなかったんだ。そういえば……」


 会った瞬間から弾丸のように話し始めたアクベンスをシェアトが笑顔で手を上げて制した。


「アクベンス、まずは体を洗ってね。私たちはそのあいだに荷物を客室に運んでおくから、着替えが終わったら食堂でゆっくりお話をしましょう」

「えっ、でも、まだ……」

「師匠、とりあえず体を洗いにいきましょう。荷物はここに置いて」


 ハマルらしき子がアクベンスの荷物を引っぺがしていき、シェアト達によろしくお願いしますと渡していった。


「では体を洗ってきます」


 有無を言わさない態度でアクベンスの背中を押して連れていった。


「相変わらずね、アクベンスは」


 シェアトは苦笑いをしてそう言った。


「ハマルはしっかりしてた。ちゃんとアクベンスを制御している……」


 ナシラはハマルの成長を驚いていた。


「あんなに一度にたくさんのこと話す人、はじめてだわ。お話しするのが好きな人なのかな?」


 アルドラが初めて見るタイプに目をパチパチさせて、こそっと私たちに同意を求めてきた。


「きっとね。あと、なんていうか……、好奇心旺盛な感じがするよね」


 私の言葉に、クラズもコクリと同意した。


 今までとは異なる、新しい出会いに呆気に取られながらも、来訪者を迎えることに後ろ向きだった気持ちは、ふたりの様子を見て完全に消え失せた。

 そして新たに、どんな話が聞けるのか楽しみな気持ちがむくむくと湧いてくる。

 私は荷物を運びながら、どんどんと変化する自分の気持ちに驚いていた。



「おかげでさっぱりしたよー」


 肩まである灰色の濡れた髪から、水滴がポタポタと落ちるのも気にせず食堂に入ってきたアクベンスは、椅子に座って


「ここも変わってないねー」


そう青色が少し混ざっている緑の瞳でキョロキョロと室内を見渡している。


「師匠、駄目ですよ。せめて髪を乾かしてからにしてください」


 アクベンスの後を追って食堂に入ってきたハマルは、自分の濡れたオレンジの髪を器用に布でまとめて、先にとアクベンスの髪を持ってきた乾いた布で拭きはじめた。


「ハマルにそんなことさせてるの?」


 シェアトが驚いていると、ハマルが違うんですと説明をした。


「師匠はいつもこのままで平気なんですが、床が濡れて滑ったり、せっかく描いた絵や原稿に水を滴らせて台無しにしたりして後が大変だから、こうやって気がついた人が拭いてるんです」

「それはアクベンスが良くないわ」


 シェアトがアクベンスの前に座って乾いた布をハマルから受け取って注意をし始めた。


「これで落ち着いて髪が拭ける」

「お疲れさま。そちらの椅子に座ったら?」


 ハマルとナシラが並んで座って話を始めた。

 せっかくの再会なので、なんとなく遠慮をして私たち三人は厨房でミラクの手伝いをした。

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