第2話 誕生の家
「この子で全員そろったわ」
青緑色の髪の人がルクバトに話しかけて、手をつないで連れてきた子を洗い始めた。その子もアルドラと違う可愛らしさで、透き通った金髪がキラキラと太陽の光を受けて輝いていた。
──天使みたい……
ぼんやりと洗われている子を見て、その無垢な様子に目を奪われた。
洗い終わり、全員の身だしなみが整ったところで、私たちのほうにやってきた。
「それじゃあ家へ入りましょう」
青緑色の髪の人がそういって先導しはじめた。
私はアルドラと手をつないで、金髪の子はルクバトと手をつないで、それに続いた。
「さっきの森は『孵化の森』と言われていて、この町を選んだ子たちが生まれる場所よ。孵化の森はそれぞれの町や都市にあって、あなた達のように生まれてくる子達がたくさんいるの」
振り返って、歩いている私たちを見て優しく笑うと、説明を続けた。
「そして、こちらは『誕生の家』と言って、この森で生まれた子を最初に迎える家よ」
私たちは石造りの平屋の建物を見上げながら入り、左右にいくつかある部屋を通りすぎた。そして、左側にある広めの部屋に入った。
そこは食堂だった。長方形の大きな木のテーブルが真ん中にあり、囲むように木の椅子が置かれている。そこに座るよう促され、それぞれ好きな場所に座った。
「まずは私の自己紹介から……」
青緑色の髪の人は優しく微笑みながら
「私はシェアト。この誕生の家の取りまとめ役よ。あとふたりと一緒に、この家の切り盛りをしているわ」
そう自己紹介をして、ルクバトのほうを見た。ルクバトはうなずいてから、眩しい笑顔で続いた。
「俺はルクバト。力仕事が得意だから、力仕事がある時は声をかけてくれ。それからもうひとりは……」
そう言うと立ち上がり、食堂とつながっている厨房らしき場所をのぞき込んで声をかけた。
「あ、あと少しなのに……」
つぶやきながら食堂に入ってきたのは、こちらも整った顔立ちの長身の若者だった。赤銅色の瞳を泳がせながら私たちの前に来ると
「あ……、えっと……、ミラクです。り、料理を主に担当しています。よ、よろしく……。じゃあ……」
落ち着かない様子で自己紹介をして、ピンク色の髪を翻して、さっさと厨房へ戻っていってしまった。
「ミラクはあんな感じでちょっと人見知りだけど、すごく良い人で、作る料理も美味しいから楽しみにしてて」
ルクバトは笑顔でそうフォローした。
そして、ミラクと入れかわりで食堂に入ってきたのは、私たちとそれほど変わらない子どもだった。
赤髪のその子は、すこし緊張した様子で私たちのほうを向き
「僕はナシラといいます。一昨年ここで生まれて、こちらで生活してます。これからよろしくお願いします」
そうかしこまって言うと、宝石のような青色の瞳で私たちを見た。
「それじゃあ次はあなたたちの紹介をさせてもらうわね」
シェアトは私たちが最初に手に握っていたプレートを木の箱から取り出して、ひとりひとりの前に丁寧に置いた。
よく見ると、そこには『エルライ』と文字が彫られている。しかしそれは日本語ではない。というか過去に一度も見たことのない文字だった。だけど不思議なことになぜか読めるのだ。
「まずこの子がアルドラ、この子がエルライ、そしてこの子がクラズ。今年はこの三人が仲間に加わったわ」
知らない言語が理解できる不思議に頭を悩ませながらも、シェアトの話に耳を傾けた。
「あなたたちには、しばらくこの誕生の家で生活してもらいます。そして自分の進みたい道が見つかったらここを出て、弟子入りしたり、生活の場を移すことになります。七、八歳くらいで決める子が多いわ。あなたたちは今五歳だから、ゆっくり考えてみてね」
そしてプレートを再び木箱に戻しながら
「こちらのプレートは最初に名前を確認するためのものなので、生活する上では使用することはないから、この家で保管しておきます」
そう説明を受けていると、厨房からすこしだけ顔を出したミラクがナシラを呼んだ。ナシラはサッと厨房にもどり、しばらくするとお盆に複数の木のお椀をのせてやってきた。
「ちょっと今日は早いけど、夕食にしましょう」
シェアトが立ち上がってそう言うと、ルクバトも厨房に入り、パタパタと食事の準備をはじめた。
*
生まれたばかりの三人に配られた食事は、水分が多めのお粥だった。出汁がきいていて、口に含むたびにジンワリと体に染み込むようで美味しかった。
他の人たちは、炊いたお米に焼いた魚、野菜炒めなどを食べている。そちらも美味しそうだが、まだ固形物を体が受けつけないのか、意識はすぐにお粥へと戻っていった。
食事が終わりお茶を飲んでいると、だんだんと眠気が襲ってきた。
たくさん眠っていたような気がするのに不思議だなと、がんばって目を開けていると、アルドラとクラズも同じようで眠そうな目をしている。
それにいち早く気がついたナシラは、シェアトに声をかけ、三人は寝室へ行くことになった。
寝室に向かう途中に、シェアトにトイレの場所と使い方、水瓶の位置などを教わった。
わからないことがあれば誰かに声をかけてね、と通されたのは、ベッドがいくつか置かれた部屋だった。
ベッドは藁に大きな布をかぶせたもののようで、少しチクチクして気になったが、眠気にはあらがえずそのまま深い眠りについた。
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