自分

 そして、ふと思いつく。あの呪文を、夢でいっていたのは誰なのだろう?


 この怪現象は、恐らく自分にしか起きないもの。それなのに、ずっと正体を示していた声がある。


 最初から、ハッキリと伝えてくれれば、この様な有様ありさまにならなかったかもしれない。


 そう思うと、また涙が溢れてくる。


 だが、別の事を思いつき、少しだけ笑いが出た。


「ちが…あれ…は…わたし…か…」


 無意識のなかで、つらいと叫んでいた私。

 無意識に黒い粉を作り出していた、押し潰していた、自分。


「自分が強くなればいい」と思い込んでいた裏に抑圧していた、「誰か助けて、許して」と叫んでいた自分。


 全て、自分の中だけで、行われていた事。


「だ…れに…も…いえないや…」


 スマホを取り出していた手も、救急車を呼ぶことを諦めていた。こんな自分にしかわからない怪現象、医療だって治せることできないだろう。


「どうし…たら…いい…?」


 また涙があふれてきたその次の瞬間、


「あ…あ…あう!あ!!!!!」


 また、激しい「頭痛」が、全身を襲った。


「くろ、こな、はやく」


 髪だけではなく「身を削れば」全身から黒い粉を作れる事が分かった今、両腕を必死に掻きむしる。


 腕に浮き出してくるザラザラとした黒い粉を、必死に擦る。激痛は少しだけ和らぐが、完全に消えはしない。


「もっと、もっともっともっと、こな、ないと、たすからない」


 痛む全身を起こし、震える手で服を脱ぎ、四苦八苦して全裸になる。

 立膝をして上半身をガリガリとかくと、ザラザラと黒い粉が生まれ、ベッドに散らばる。


 それらを集めて掬い、擦り合わせる。

 大量の煙が立ち上り、全身の激痛は和らいでいった。


「わた…し、これから…こんなこと、くりかえすの?」


 髪はもう無くなり、両腕や両足、上半身に無数に出来た引っ掻き傷に、黒い粉がうっすらと残る。


「こんな…の…」


 立膝で下向き、散らばっている黒い粉に、ポタポタと涙が落ちていく。


「いきてる…の…? わたし…」


 いつ来るかわからない激痛を震えながら待ち、来れば発狂しながら体を掻きむしる。


 なにかわからない黒い粉を出し、これをこすり続ける。


「もう…にんげん…じゃない…」


 そう呟いた瞬間、また「頭痛」が全身を走り抜ける。


「あうあうあうああああああああぁぁぁ!!!!」


 いつもの癖で、頭を抱えた。そこで無い髪を掻きむしった。


 頭部から、ザラリザラリと音がして、耳に粉が降り注ぐ。耳殼にたまったそれを振り払うと、また煙がたちのぼり、痛みが少し引いていく。


 はあはあと息を弾ませながら、ジャリジャリとする頭を抱えると、ふと、思いついた。


「あたまがいたいなら…あたまがなくなれば…いい…」

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