第212話 ラフィージア王
「「!?」」
なにが起こったのか理解出来なかった。
目の前で魔物は、斜め上から降るように落ちて来た光に身体……それも心臓部分なのだろう箇所を寸分の狂いもなく貫かれ、そして口から血を噴き出した。魔物は一瞬眼を見開き震えたかと思うと、そのまま硬直したように固まり、そして海へと落下して行った。
私は目を見開いたまま動けなかった。飛行船にいる皆も、ゼスも同様だった。ルギニアスは……。
ルギニアスだけは一瞬目を見開き、そしてガバッとその光が飛んできた方向を睨んだ。必死に思考を動かそうと、なんとかルギニアスの視線の先へと目を向けると、そこにはルギニアスと同様に宙に浮く数人の人がいた……。
「だ、誰!?」
驚き声を上げると、ルギニアスが私を抱える手に力を籠めたのが分かった。こんな高度の高い位置で宙へ浮いている人たち……普通の人でないことは一目瞭然だった。
そしてその人たちを見てハッとする。
「黒髪……」
私たちを見下ろすその人たちの髪色は黒い……ルギニアス……ルギニアスと同じ黒髪……。この世界では確か黒髪は珍しかったはず……。獣人にはたまにいるらしいが、獣人以外ではあまり見かけない。全くいないのか、と言われると、はっきりとは分からないが、それでも今までルギニアス以外の黒髪の人に出逢ったことはない。
そんな珍しい黒髪の人がこんなにたくさん……。
「ル、ルギニアス……」
なんだか少し不安になりルギニアスにしがみ付く手に力を籠めた。ルギニアスは無意識なのか、私を抱える手の力をさらに強くした。
ゼスが大きく旋回し、私たちの傍へと降下して来た。そしてすぐ傍で羽ばたきつつ並び、同様に黒髪の人たちを見上げた。
「助太刀感謝致します。我々はガルヴィオの者です。貴方がたがどこの誰なのかお教えいただきたい」
ゼスは見上げながら叫んだ。
その言葉に反応したのか、ひとりの男性が前に出たかと思うと、すぅっと私たちの元まで降りて来た。
その男性は綺麗な漆黒の長い髪に、澄んだ水のような綺麗な水色の瞳。しかし光を浴びているせいなのか、時折その瞳の色は虹色のように揺らぎ煌めいていた。そして風が吹くたびに白いローブのような服がふわりと舞っている。
精悍な顔のその人は黒髪のせいなのか、なんとなく……そう、なんとなくなんだけれど、ルギニアスに似ているような気がした……。
その人はルギニアスにチラリと視線を寄越したかと思うと、ほんの少しの間ジッと見詰めた。そしてゼスに向き直り言葉を発する。
「私はラフィージアのオルフィウスだ」
低く落ち着いた声音でそう告げた名に、ゼスは目を見開き、そしてそれが聞こえたのだろうヴァドが驚きの声を上げた。
「オルフィウス……オルフィウス王ですか!?」
その言葉に私も目を見開いた。
「お、王!? ラフィージアの!?」
驚き固まっていると、オルフィウス王は言葉を続けた。
「こんなところで長話をするつもりもない。仕方がないので付いて来るがいい」
そう言ってオルフィウス王は踵を返したかと思うと、宙を舞うように昇っていく。そして待機していた他の人たちとどんどんと空高く昇って行ってしまう。
「あ、ちょっ!!」
ヴァドが慌てた様子でゼスに戻るよう促す。ルギニアスは私を抱えたままオルフィウス王の後ろ姿を睨んでいたが、同様に飛行船へと戻った。
目の前で魔物を殺され、ルギニアスは大丈夫だろうか、と心配になる。ルギニアスの腕を掴んだまま顔を覗き込むと、なにを考えているのか、宙を睨むように考え込んでいるようだった。
ヴァドは急いでオルフィウス王を追うために、飛行船の速度を上げた。さらに浮力を上げ、高度を上げていく。そして遠ざかってしまったオルフィウス王たちを見失わないよう追いかけていくと、空にポツンと浮く巨大な大地が現れた。
大地はなにで出来ているのか、石畳のような金属のようなものが敷き詰められていた。下から眺めていると、大地の底は緩やかな半球体のように膨らみがあり、なにやら数多くの魔石の気配、さらにその全ての魔石にはなにかの導線のようなもので繋がれてあるようだった。
そして一番は……この大地の中心地辺りだろうか、とてつもなく強力な魔石の気配を感じた。
「ラフィージア……」
私たち全員の呟く声が重なった。
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