第213話 天空の国ラフィージア

 オルフィウス王たちはゆっくりとその大地の端へと降りて行く。そしてこちらに振り向いたかと思うと、オルフィウス王は真っ直ぐ腕を伸ばし、ある方向を指差した。


 ヴァドはその先に視線をやる。それに釣られて私たちもその視線を追った。そこにはおそらくラフィージア城なのだろう、真っ白な城。アシェルーダの城と似ているが、全てにおいて白かった。光に当たりキラキラと煌めく壁がまるで宝石のようだ。


 大地の中心地。おそらくあの強力な力を感じる魔石のその真上。その魔石を護るように建つ城。そしてその周りに城壁が広がり、そのさらに外に広がる街。その街並みも全てにおいて真っ白だった。


 オルフィウス王はその城を指差しているようだ。よくよく見ると、城内であろう場所に、なにやら開けた場所がある。


「なるほど、あそこに飛行船を降ろせということか」


 ヴァドは頷き、船長に指示をする。飛行船はゆっくりと街の上空を進み、慎重にその広場へと降りて行く。街では驚きの顔でこちらを見詰めている人々の姿が見えた。


 ガルヴィオのときよりも狭い広場への着陸。船長や船員たちの緊張が伝わってくる。皆、息を飲みながらそれを見守っていると、ゆっくりと静かに高度を下げて行った。


 飛行船が着陸すると、皆から安堵の溜め息が漏れる。そして、ヴァドを先頭に飛行船の扉からラフィージアへと降り立った。


 飛行船から降り立つとき、ルギニアスは私の後ろに続いた。私を守るように、傍から離れないように、そんなルギニアスの想いが伝わる。ルギニアスはなにを考えているのか、オルフィウス王と対面してからずっと難しい顔をしていた。


「オルフィウス王の元までご案内致します」


 広場で待ち構えていたひとりの男性が私たちの前までやって来た。先程オルフィウス王と共にいたような気がする。歓迎されていないのだろう、この男性はずっと無表情だ。しかも、なにやらこちらを見定めるような視線を感じる。


 私たちは言われるがままその男性に続く。広場は演習場だったようだ。周りにはなにやら大勢の男性がこちらを見守っていた。その姿は魔法訓練でもしていたようで、そこかしこに魔法攻撃の名残が見える。


「あー、飛行船が訓練の邪魔をしたようですね。すみません」


 ヴァドが案内をしているその男性に向かって言った。しかし、その男性は振り返ることなく歩き続けている。


「いえ」


 小さく答えたその言葉は、とてもじゃないが許しているような声音には聞こえなかった。「仕方がないから」という言葉が後に続きそうだな、と感じ苦笑した。ヴァドも同様に思ったのか苦笑していた。



 男性の後に続きながら城へと入って行くと、城はとても分かりやすい造りで、円で伸びる通路、そしてそこから四方に中心へと繋がる通路がある。その通路の真ん中、この城の、というかこの国の中心地に当たる箇所に王の間があるそうだ。そしてその地下にはあの強力な魔石が……。


 王の間へと到着するとその男性は扉を叩き、なかへと足を踏み入れた。そしてオルフィウス王へと声を掛ける。


「お連れ致しました」

「ご苦労」


 私たちに小さく頭を下げたその男性はオルフィウス王の元まで進むと、傍へと立った。私たちはそのままオルフィウス王の前へと進む。


 ヴァドは目の前の王座に座るオルフィウス王を一度見ると、そのまま膝を付いた。そして頭を下げる。私たちは驚き、ヴァドに倣うように膝を付く。しかしルギニアスは立ち尽くしたまま、真っ直ぐオルフィウス王を睨んでいる。


「ル、ルギニアス……」


 小声でルギニアスに声を掛け、手を引っ張る。しかし、ルギニアスは立ち尽くしたままだ。ど、どうしよう、と焦っていると、オルフィウス王が口を開いた。


「良い。敬う気持ちのない奴に膝を付かれてもな。他の者も立つと良い」


 笑うでもなく怒るでもなく、ただひたすら無表情のままそう言うオルフィウス王。端正な顔立ちのせいか、それが余計に冷たさを感じる。

 私たちはお互い顔を見合わせながらも、オルフィウス王の言葉に従い、立ち上がった。


「フン、で、何用だ」


 小さく溜め息を吐いたオルフィウス王はさも興味なさげに聞いた。ヴァドは私たちをチラリと見ると、再びオルフィウス王を真っ直ぐ見詰めゆっくりと言葉を選ぶように話し出す。


「私はガルヴィオ国王太子、ヴァドルア・シギ・ガルヴィオと申します。我が父からオルフィウス王へと書状が届いていたかと思いますが、今回の訪問を許可いただき感謝致します」

「許可はしていないがな」


 丁寧に言葉を選んでいるヴァドの台詞に向かい、ボソッと呟いたオルフィウス王の言葉に全員がビクッとする。その声音は拒絶の色を現していた。


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