第209話 鳥類獣人と魔物の戦い
魔物は明らかにこちらを発見し向かって来る。
「なんでこんなところに魔物が!?」
ディノが叫ぶ。
「この辺りはアシェリアンの神殿近くでもあるからか、魔界への大穴が近いと言われている。はっきりとした場所も分からないし、本当なのかも分からんが、確かにこの辺りにはごく稀にだが魔物が出没する、という話は聞いたことがある」
ラフィージアへの道程途中にまさか魔界への大穴の話が出てくるなんて。ルギニアスが気になって仕方がない。今どんなことを思っているのだろうか。皆もルギニアスのことを気にしてくれているのか視線が集まる。ルギニアスは風を巻き上げ大きくなった。
「なにかの弾みで結界が緩むと魔物がこちらに流れることがある。あいつはたまたま流れて来てしまったんだろう」
結界が緩む……お母様になにかあったのかしら……不安になる。そんな不安を感じ取ったのか、ルギニアスは私の頭の上にポンと手を置いた。言葉はなにもなかったが、その手の温かさが「大丈夫だ」と言ってくれているようで安心する。
「出ます」
ゼスが私たちの背後でそう言葉にした。私たちは一斉に振り向く。大きくなったルギニアスに驚くでもなく、ゼスは相変わらずの無表情。しかし、身体を纏う空気が変わっていた。
「大丈夫か?」
若干焦った顔となっているヴァド。私たちも皆、不安気にゼスを見る。ゼスひとりで戦えるとは思えない。
「やってみます。援護をよろしくお願いします」
そう言ったゼスは飛行船の扉を開いた。ゴォォォと風が一気に吹き込んで来る。そんななかゼスは躊躇することなく、扉からその身を投げた。
「!?」
私たちは驚き、慌ててゼスが飛び降りたところを見下ろした。
すると、落下したかと思ったゼスの身体は一瞬にして巨大な鷲のような鳥の姿となり、大空を飛んだ。
「!! 飛んだ!!」
驚いていたが、ヴァドはすぐさま船員たちと援護準備に入る。
「イーザンも手伝ってくれ!!」
ヴァドが叫び、イーザンは頷く。飛行船内は急速に慌ただしくなっていく。船員たちは攻撃用の小窓からなにやら魔導具を装備すると配置に付き、魔力を送る準備をしている。
イーザンはヴァドと共に船尾へと走って行った。船尾ではなにやら扉が開かれ、見張り台のようなものが突き出していた。そこへヴァドとイーザンが降り立ち、イーザンは魔導剣を鞘から抜いた。
ルギニアスにも一緒に戦ってもらえたら、かなり楽に戦えるはず……でも……私はルギニアスにそれをお願いすることは出来なかった。
魔物を倒せ、とは言えない。
皆も同様に思ってくれているのか、誰一人としてルギニアスに戦いに出ろとは口にはしなかった。それが申し訳なく思いつつも嬉しくなる。
ルギニアスはじっと魔物を見詰めていた……。
『グルゥゥゥゥアアアッ!!』
あっという間に近付いて来た魔物が咆哮を上げる。いきなりこちらの世界へ来て混乱しているのか、人間に怒りを向けているのか、明らかに憎しみを向けている気がした。
どうして魔物と人間は憎しみ合うことしか出来ないんだろうか。ルギニアスとはこうして分かり合えていると思えるのに……。
ルギニアスの話では魔物にも意思はある。家族もいる。人間となんら変わらなそうなのに……。どうしても共存することは叶わないのかしら……。そんな思いが胸を占める。
しかし今はそれどころではない。ゼスが命を懸けて戦おうとしてくれているのよ。飛行船から援護の魔法が飛ぶ。魔物へ向かい炎弾が撃ち込まれていく。
見張り台からはイーザンの雷撃が迸る。しかし、魔物は咆哮を上げただけで、それらの魔法を搔き消した。
「!?」
皆は驚きの顔となったが、しかし、それでも攻撃を続ける。ゼスは大きく旋回しながら魔物の上空へと舞い上がる。そして真上から急降下したかと思うと、激しい炎を噴き出した。炎を噴き出したまま、鋭い爪を持つ脚を大きく振り下ろし斬り付ける。
しかし魔物は同様に鋭い爪のある手を振り回し、ゼスに斬りかかる。ゼスは素早くそれを避け、再び距離を取ったかと思うとすぐさま方向転換し、魔物の翼を斬り付ける。その動きは私たちの目では追うことが出来ないほどの速度だ。
凄まじい速度で何度も何度も爪で斬り裂き、間近で炎を浴びせる。魔物はそのたびに怯むが、しかし、利いているのかいないのか、ゼスの速度に追いつきはしないが、それでも暴れ回り動きが衰えることがない。
炎弾やイーザンの雷撃をも撃ち込んではいるが、それでも魔物が弱っているようには全く見えない。
「あれでは駄目だ……」
ルギニアスが眉間に皺を寄せながら呟いた。
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