第192話 ガルヴィオ国王

 ヴァドと似てはいるがなんだか怖そうな雰囲気というか、威圧感のあるというか、貫禄のある雰囲気の男性だ。この方がガルヴィオ国王……。その横にはラオセンと呼ばれていた人だろうか、金色の耳に髪、金色の瞳の国王と同じくらいの年齢そうな男性。ん? 誰かと似ている?


「ヴァドルア様、後ろの者たちは誰です? 貴方様が連れて来られたのなら心配はいらないのでしょうが、一応国王の執務室ですよ? 面会許可のない者を簡単に連れて来ないでもらいたいものですね」

「まあまあ、ラオセン、ヴァドルアのこれはいつものことだ」


 国王は隣に立つラオセンさんに笑いながら言った。怖い人かと思ったら、意外と気さくそうな国王様ね。「一応国王」ってしれっと言われていたけど、気にしていないのかしら、と苦笑する。

 そんなやり取りのおかげで、緊張していたのが少し和らいだ。皆も同様に思ったのか、張り詰めていた空気が少し和らぐ。


「さすが父上、よく分かってらっしゃる」

「陛下、甘やかすのも大概にしないと、この方、いつまでも妃を迎えませんよ?」


 呆れたように言うラオセンさんにヴァドがうぐっとなった。


「そ、そんな話は今関係ないだろう!!」

「いえ、大いに関係ありますよ。二十六にもなっていつまで遊び呆けているのですか? いい加減妃を迎え、お世継ぎをお願いしますよ」

「俺自身がまだ跡を継いでいないんだから良いだろうが!!」

「だからそれがお子ちゃまだと言うのですよ。もっと王太子だという自覚を持っていただかないと」


 ヴァドが完全に言い負かされ「きぃぃ!!」となっている。思わず笑いそうになり、私たちは顔を見合わせ必死に耐える。


「二人の喧嘩はいつものことだから放っておこう。お茶でもどうだい?」


 そう言って国王が椅子から立ち上がり、応接椅子へと促した。


 いやいや、ちょっと、な、なんかこの国王もやたら気さく過ぎない? ヴァドとラオセンさんはずっとやいやい言い合ってるし……なにこれ……。


「ちょ、ちょっと!! 父上!! 放置して自分だけお茶飲もうとすんな!!」

「だってお前たち喧嘩し出すと長いじゃないか。私だけ置いてけぼりだしつまんない」


 つ、つまんないって……拗ねたようにブツブツ言い出した。だ、駄目だ……なんかカオス……。


「おーい、お茶と茶菓子を用意してくれー」


 国王は呼び鈴を鳴らし、メイドらしき獣人にそう告げた。しゅ、収集つかない……どうするの、これ……。


 ディノやイーザンの顔をチラリと見ると二人も苦笑し、リラーナとオキはひたすら笑いを堪えている。ルギニアスは鞄のなかなのでよく分からないけれど、きっとシラーッとしているんだろうな……。


「あ、あのー、すみません、話を……」


 恐る恐る声を掛けると、国王とヴァドとラオセンさん全員からの視線が一気に集まり「ひぃい」となった。


「あー、すまん……って、ラオセンのせいじゃないか」

「人のせいにしないでください」


 またしても言い合いが始まりそうだったのを、さすがに今度は国王が止めた。


「はいはい、とりあえずこっちでお茶にしよう」


 お茶かーい! って思わず突っ込みそうになってしまった……。オキが「ブフッ」と噴き出している。ちょっと。


 メイドさんが用意してくれたお茶と茶菓子がテーブルに並べられていく。そして、応接椅子には国王とヴァドが並んで座り、その向かいに私とリラーナ、ディノやイーザンやオキには別のテーブルと椅子が用意され、そこにラオセンさんも座った。


 国王は早々にお茶を口にし、茶菓子を頬張る。ヴァドは私たちにも促してくれ、おずおずとしながらも、お茶をいただいた。ラオセンさんはやれやれといった様子でお茶を口にし、ようやく落ち着いたようだ。


「で、なんの話だったかな?」


 茶菓子を堪能したあと、国王がカップを手に持ったまま聞いた。よ、ようやく話が戻った……。


「なんの話もなにも、全く話が出来てないまま、ラオセンがごちゃごちゃうるさいから」


 ブツブツと文句を言うヴァドにラオセンさんはシレッとしている。やれやれといった顔のヴァドが溜め息を吐きつつ、ようやく本題に入った。


「単刀直入に言うけど、ラフィージアに行きたいんだ。ラフィージア国王に面会申請の書状を書いてもらいたい」

「「…………」」


 国王とラオセンさんはお互い顔を見合わせた。私たちは息を飲み緊張する。


 国王が今までになく真面目な顔となり、手に持っていたカップをテーブルに置いた。そして私たちを見回し、ヴァドを真っ直ぐ見据えると静かに聞く。


「理由は?」


 ヴァドはルギニアスのことは伏せつつ、私がアシェルーダの貴族であり、両親の行方が分からないこと、そして母親が現代の聖女だと言うことを伝えた。


「聖女……彼女の母親が……」


 国王は私に視線を移した。


「聖女だとして、それがなぜラフィージアに繋がるのだ?」

「それが……」


 ヴァドは私に視線を寄越しつつ、再び国王に向き話す。私が大聖堂に監禁されたこと、その後もずっと尾行やガルヴィオの大聖堂にまで拘束するよう指示があったことを。


「ルーサは母親の行方を探すために神殿に行きたいんだが、アシェルーダやガルヴィオの大聖堂からでは拘束される。だからラフィージアに行きたいんだ」



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☆次回、4月1日更新予定です。

※突発的にお休みするかもしれませんが申し訳ありません。

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