第193話 代々の聖女とは…
「ふむ、確かにラフィージアなら、大聖堂も王の管轄だから、簡単に他国から介入は出来ないからな……まあ、ラフィージアの王は私からの書状があっても会ってくれるかは分からんが」
国王は顎に手をやり考えながら言った。そして、眉間に皺を寄せながらも、なにやらニヤッと不敵な笑みを浮かべる。
「それにしてもアシェルーダの王は一体なにを考えているのやら。他国の大聖堂に勝手に命令を下すとは、我が国に喧嘩を売っているのか? 国から正式に苦情を入れてやろうか」
国王の黒い笑みにぞわりとこの場の空気が一気に冷えた気がした。
私たちの空気が張り詰めたことに気付いたのか、国王はすぐさま気配を緩め、ハハと笑った。気安く呑気な人なのかと思っていたけど、そこはやはり国王なのね、威圧感に圧倒される。
「しかしだな、ルーサ嬢はなぜ追われているんだ? 彼女の母親が聖女だからといって追われる理由にはならんと思うが……」
国王はこちらに聞きながらも、意識は自分の内へ向いているような。なにか考え込んでいる?
「それが分からないんだよな。ルーサ自身も全く理由が分からないらしいし」
ヴァドが答えたその言葉に、国王はなにかを思い出すかのように、視線は宙を見詰め、顎をすりすりと撫でている。
「アシェルーダは聖女に関しては極秘にしているからな……これはガルヴィオ独自に調べた事だが……」
そう言い国王は私にチラリと目線を寄越す。言おうかどうしようか、少し迷うような素振りに見えたが、しかし、顎から手を離すと、両手を組み真っ直ぐ見据えた。
「聖女は世襲制らしい」
「世襲制?」
全員がキョトンとした顔となった。ルギニアスだけはなにか思ったのか、鞄のなかでビクリとなにやら反応したような気がした。
国王は話を続ける。
「聖女の家系ということだ。代々聖女が子を生み、そしてまたその子が聖女となる。そうやって何百年もそのひとつの家系に生まれた女子が聖女として力を授かって来た。ということは、だ……」
私を見据えた国王は真剣な顔で、私を見定めるような視線。
「ルーサ嬢は魔石精製師だと言っていたな」
「は、はい」
「世襲制の話が間違いでないのなら、今の聖女……そなたの母親が新たに子をなさないと聖女がいなくなる、ということだ」
「!? 聖女がいなくなる!?」
全員が驚きの表情となり、私は今聞いた言葉をどう受け止めたら良いのか分からなかった。
「この世界において、現状聖女がいなくなることは困る。いまだに魔界への穴が開いたままだからな。それを塞ぐための結界を張れるのは聖女だけだ」
それは理解出来る。聖女がいなくなれば、結界を維持出来なくなるだろう。
そうなると、再び魔界からは魔物が……。
ルギニアスのいる鞄にそっと手を伸ばした。ルギニアスは身体を強ばらせているようだった。
「しかし、もし、聖女は一人の子しか授からないのだとしたら? 聖女としての力を持つ者を聖女が生むことが出来たとしても、血筋から一人しか生まれないのだとしたら?」
言っている意味が分からなかった。しかし、なにやらルギニアスが鞄から飛び出して来そうな雰囲気を感じ、出て来ないように制止させる。
「ルギニアス、出て来ないで」
誰にも聞こえないように、そっと呟くと、ルギニアスは動きを止めたが、しかし、やはり今にも飛び出してきそうな気配。
国王はルギニアスの存在には気付いていないのだろうが、しかし、私を見据える目は鋭さを増した。
「ルーサ嬢が聖女ではない、ということならば、君は聖女が生まれるための障害となる」
ヴァドがハッとした顔で私を見る。そして、皆も次々になにかを察したかのように、ハッとし、私に視線を投げた。
あぁ、分かった……。ようやく私にも国王の言わんとしていることが理解出来た……。
「私が邪魔な訳ですね……」
ルギニアスが飛び出してきそうになってきていた理由も分かった。ルギニアスは私を心配してくれていた訳だ。
お母様も確か兄弟はいないと聞いていた。お父様の兄弟の話も聞いたことはないが、ローグ伯爵家はお母様の家系だと聞いたことがある。
代々聖女が生まれ、そして、その聖女である女性が継いで来た家系……。
聖女は一人しか子を生めず、ひと時代に一人の聖女しか生まれないのなら……私が聖女ではなかった以上、私がいなくならないとお母様の次の聖女が、授かることも、生まれてくることも出来ない訳だ……。
「憶測でしかないがな……しかし、もし、この考えが正しいのなら……君は命を狙われるかもしれない……」
「「「「「!!」」」」」
あぁ……そういうことか……
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