第191話 ガルヴィオ城

 魔導車から降り、城門ではいつものことのように門兵に挨拶をするヴァド。あまりの警戒のなさにも驚くが、城門から先へ進むと、広大な敷地にさらに驚く。


 真っ黒の城は多くの棟からなりたっており、二階から通路が伸びていたりもする。さらには何階建てなんだろうか、窓の数を見ると……五階建て? 一番大きな塔はさらに高い。

 高さだけでも圧倒されるのに、黒いとさらに威圧感を感じる。


「真っ黒かと思ったら、近くで見るとなんだか少し色が違うわね」


 リラーナがまじまじと壁を見上げながら呟いた。確かに真っ黒なようで、良く見ると、なにやらキラキラとしているような。


「あぁ、城の壁は特殊な素材を使ってあってな。その素材のせいで黒のなかにキラキラとしたものが見えるんだ」

「特殊な素材!? なにそれ!」


 リラーナがヴァドに食い付いたが、ヴァドは最近リラーナの食い付きに慣れて来たのか、ひょいっと避けて、手をひらひらとさせた。


「それは秘密だな、アハハ」

「えぇぇ!! 気になる!!」

「アハハ」


 ヴァドはリラーナを軽く受け流し、そのまま城のなかへと入って行く。城門から一番近かった正面の棟、そこにはとてつもなく大きな扉があり、扉横に立つ騎士らしき獣人二人が扉を開けてくれた。


 分厚く重そうな扉はゴゴゴッと音を立てながら両開きに開かれ、私たちがそのなかへと足を踏み入れると、再び扉は重厚そうな音を上げながら騎士によって閉じられた。


 城のなかは真っ黒の壁からは想像出来ないほど華やかな色合いだった。広いエントランスには深紅の絨毯が敷き詰められた床、色とりどりの花が飾られ、多くの灯りがそこかしこに灯され明るい。

 正面には左右に延びる大階段があり、その階段は大きな窓から外の光が差し込んでいた。


「ヴァドルア様、おかえりなさいませ」


 エントランスの横にある通路から現れた獣人、金色の丸い耳に髪、金色の瞳の獣人は、上品な服を着込み、軽やかに近付くと、胸に手を当てお辞儀をした。綺麗なお辞儀に所作、洗練された動きに、明らかに平民ではないのだろうことが分かる。


「サイラス、ただいま。父上はどうされている?」


 サイラスと呼ばれたその獣人は、私たちを気にすることもなくヴァドを真っ直ぐに見る。


「陛下は現在執務室におられます」

「こいつらと共に面会したいんだが今からいけるか?」


 ヴァドはそう言いながら、私たちに視線を投げ掛けた。そこで初めてサイラスさんがこちらを見る。


「こちらの方々はアシェルーダの方ですか?」

「あぁ、出来れば早く父上に会いたいんだ」

「本日は急ぎの案件はなかったかと思われますので、おそらく大丈夫ではないでしょうか」

「分かった、ありがとう。執務室に行ってみるよ」


 ヴァドはサイラスさんに手を振り、私たちを促した。サイラスさんは私たちにもお辞儀をしつつ見送っていたが、なにやら歓迎されているのか拒絶されているのか……なにを考えているのか分からない人だったな……。


「ねぇ、今のひとは?」


 先を歩くヴァドの後に続きながら聞いた。


「ん? あぁ、サイラスのことか?」

「うん」

「俺の側近だ」

「側近……」

「まあ、普段俺は全く城にいないから、側近と言って良いのかは微妙だけどなー」


 そう言いながらアハハと笑うヴァド。確かに側近と言えば、いつも傍にいるのが当たり前のような……でもヴァドは一人で出歩いているものね……ハハハ……。


 それにしても側近がいるなんて、本当に王子様なのね……と、感心していると、廊下を進み、あちこち曲がり、としているうちに、どこにいるのか分からなくなってきた。

 ひたすらヴァドに遅れないように必死について行き、歩き続けると、ヴァドはひとつの扉の前で止まった。


 その扉の前には騎士らしき獣人が二人立っている。


「ヴァドルア様」

「すまん、父上はおられるか?」

「はい、現在ラオセン様もおられます」

「ラオセンか、ちょうどいい」


 ヴァドは扉を叩いた。


「父上、ヴァドルアです。少しお話したいことが」


「入れ」


 部屋のなかからは初老の男性らしき人の声がした。ヴァドは私たちを見ると、ニッと笑い扉を開ける。


「失礼します」


 そう言って部屋のなかへと足を踏み入れる。私たちはおずおずとそれに続いた。部屋のなかは執務室と呼ばれるだけあって、落ち着いた部屋で、多くの本や書類が並び、応接椅子やテーブル、そして一番奥には大きな机。そしてそこにはヴァドとよく似た毛並みの獣人。銀色の尖った耳に髪、鋭い金色の瞳。ヴァドが年を取ったような獣人がいた。


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