第179話 魔傀儡師探しへ

「あぁ、いくら他国の介入や訪問を受け入れていないとはいえ、国使となればさすがに門前払いは出来ないだろうしな。少しだけでも面会が出来れば、きっと話を聞く気になる。ラフィージアにしても、おそらく『聖女』の話は聞かない訳にはいかないだろ」


 そう言ってニッと笑ったヴァド。


「なるほど……国使としてか……確かにそれなら面会しない訳にはいかないだろうな」


 イーザンが呟いた言葉に、皆が頷く。


「その代わり、俺の父にも『聖女』の話はしてもらうことにはなるがな」

「うん、それは仕方ないよね。ラフィージアに面会申請の書状なんてものを書いてもらうなら、ガルヴィオ国王にも説明しないといけないことは分かってる」


 ヴァドに頷いて見せた。


「しっかし、今度はラフィージアか! なんだか本当に世界中の旅になってきたな!」


 そう言ってディノが私を見て笑う。


「そういえば子供の頃にディノと約束したのは世界中を旅して回るって言っていたものね」


 お互い顔を見合わせ笑った。まさかガルヴィオだけでなく、本当にラフィージアにまで行くことになろうとは。ディノとの約束とは旅の目的が少し違うけれど、それでもやはり違う国を見られる、ということはワクワクする気持ちが高まる。


「じゃあとりあえず面会申請の書状については城に帰ってからになるから、魔傀儡師探しに先に行くか?」


 ヴァドが私たちに向かい言う。私たちは顔を見合わせ頷いた。


「はい! 魔傀儡師探しに行きたい!」


 リラーナが勢いよく手を挙げ宣言する。その姿に皆が笑った。


「よし、じゃあ魔傀儡師探しに行くか! って、森なんだよな」


 思い出したかのようにヴァドが言う。そういえば魔石屋のおじさんが魔傀儡師の居場所を教えてくれた。それは王都近くの森のなかと言っていたのを思い出す。


「森には魔獣がいるからな、それなりに備えていったほうが……、ってお前らなら大丈夫か、アハハ」


 少し考えながら言ったかと思ったヴァドは、私たちを見回し笑った。確かにディノとイーザン、オキといて、さらにはルギニアスがいる。ヴァドの戦闘能力はどれほどのものかは分からないが、エルシュからの船に乗っていたときの、クルフォスとドグナグーンとの戦闘を見る限り、ヴァドも相当なものだと思う。ある意味戦力過多?


 男性陣がお互い顔を見合わせニヤッと笑い合っているのを、私とリラーナは苦笑しながら眺めた。


 そういう訳で、結局特に備えをするでもなく、私たちは王都の外へと向かった。大聖堂がすでに街外れにあるため、街を出るには早かった。魔石屋のおじさんに教えられた森を目指し、ヴァドが先頭を歩く。私たちはそれに続き、歩いて行くと、平原の向こうに鬱蒼とした森が見えて来る。


「あの森だな」


 ヴァドが指差し、皆は前方に見える森に目をやった。なんの変哲もない森ではあるが、なぜ魔傀儡師はこんなところに住んでいるのだろうか。


 鬱蒼とした森を進む。木々が多く茂り薄暗くはあるが、しかし、まだ陽が高いため、木洩れ日が差し込み、明るさはほどほどにある。途中、何度か魔獣に遭遇し、魔石も確保出来た。ヴァドは魔石精製は初めて見るらしく、精製している間、感心しっぱなしだった。


「そういえば魔獣と獣人の区別ってなんだ?」


 ディノがおもむろに聞いた。その言葉を聞いて、確かに、と考える。獣人も獣の姿にもなるし、魔法が使える。魔獣も獣の姿のみではあるが、魔法のようなものを吐き出す。その差はなんだろう。


「ん? 遥か昔の大元はもしかしたら同じなのかもしれないが、基本的に魔獣とは意思疎通が出来ないな」

「意思疎通?」

「あぁ。俺たちも完全獣の姿にもなれるが、獣姿のままでも人語は話せる。意思疎通が出来る。しかし魔獣は完全に獣の鳴き声しか持っていない。俺たちと意思疎通は出来ないからなぁ。だから襲っても来るし、俺たちにとっても倒す相手ではある」

「へぇ、そういうものなのね」


 そんなことを話していると急にルギニアスが風を巻き上げ大きくなった。


「え!?」


 そしてルギニアスが大きく手を振り上げると、私たちを覆うように大きなドーム型の光の膜が現れた。障壁結界!?


「な、なに!?」


 全員が驚いた顔となり、ルギニアスを見る。


 障壁結界を展開させたままルギニアスは一点を睨んでいた。その方向の障壁結界に激しい爆発音と共に衝撃が走ったのだった。


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