第178話 ヴァドの正体

「ちょ、ちょ、ちょっと待って! な、なんか気になる発言ばかりなんですけど!」


 私が慌てて声を上げると、全員がウンウンと頷く。ヴァドは「ん?」とこちらを見た。


「国が介入出来ないとか、ラフィージアの王とか……ヴァドが? え? どういうこと?」

「え? あー、アハハ、すまん。ルーサがそんな大事なことを話してくれたんだしな、俺もちゃんと話すよ」


 唖然としたままの私たちに苦笑しながらヴァドは口を開いた。


「俺の名前はヴァドルア・シギ・ガルヴィオ」

「「「「ガルヴィオ!?」」」」


 ガルヴィオ……国の名前が自身の名前に付いている、ということは……


「こんなだが、俺はガルヴィオの王太子でな、ハハ」

「「「「王太子!?」」」」


 全員が驚愕の顔となったが、オキだけは知っていたのか平然としていた。


「オ、オキは知ってたの?」

「ん? あー、一応ね」


 そう言って「ハハ」と笑うが、私たちは依然として混乱したままだ。


「いや、ちょっと待って、王太子って……え、なんでこんなウロウロしてるの? いや、そんなことはどうでも良い……? いや、よくないか……」


 混乱したまま口にしているとヴァドは苦笑した。


「いや、まあ、なんかすまん。最後まで言うつもりはなかったんだが、まさか聖女とかの話が出てくるとは思わなかったしな。聖女なんかが関わっているとなると、ガルヴィオも無関係ではなくなってくるかもしれない。そうなると俺は王太子として何もしない訳にはいかなくなる」


 ヴァドはオキを見ながら話を続ける。


「オキとは、オキがアシェルーダで隠密行動中に出逢ったんだが、そのときにお互い素性は見破られてな。ハハ。それから意気投合して時折会ったりしていた。ガルヴィオにも来たことがあるよな」


 ヴァドがニッと笑いながら言うと、オキは苦笑しつつ私たちに向かって言った。


「あー、ハハ。俺の暗器はガルヴィオで作ってもらっているんだ」

「この前ゼスドルで武器屋に行ってた、ってもしかしてその暗器を?」

「そうそう、俺の暗器を作ってもらってる武器屋に行ってた」


 ヘラッと笑うオキ。そしてヴァドはこちらに向き直り話を続ける。


「俺は元々城にいるより、こうして出歩いていることが多くてなー。父である国王も家臣たちも俺のそんな行動は咎めたりしないから、いつもこうやってあちこち出歩いているし、街で出逢う者たちも皆、俺の素性は知っている」

「あー、それでこの前魔導車の運転手さんが、私たちがヴァドの素性を知らなくて微妙な顔をしていたのね?」

「ハハハ、そうそう。ルーサたちに素性を話さず行動を共にしていることに、なにやってんだ、って思われたんだろうな」

「王太子……それで、国のことや魔導具のこと、飛行艇や魔導車、列車についても詳しかった訳ね……」

「一応、国の発展のために全てを把握しておきたい性格なもんでな。アハハ」

「そっか……て、ことはヴァドルア殿下、とか呼んだほうが良いのかしら……というかこんな馴れ馴れしくしていていいのかな……」


 ボソッと口にすると、ヴァドは盛大に笑った。


「アハハハ! いや、敬語も敬称もやめてくれ。今まで通りヴァドで良いから。街の人間も皆そうだっただろ? 皆、素性を知っていても、ああやって普通に接してくれている。俺はそれがいい。ガルヴィオは国民と王家は近い存在でありたいんだ」

「凄いな、ガルヴィオは」


 ディノは称賛するように言葉にした。イーザンやリラーナも頷いている。ガルヴィオは王家と国民の距離が近いのね。穏やかな国民性もそこから来ているのかもしれない。そんなガルヴィオを素直に素晴らしい国だと思った。


「おい、それでラフィージアの王とやらの話はどうなった」


 感心していると、ルギニアスが声を上げ、全員が「あ」という顔になる。ヴァドの正体に意識が全て持っていかれ、すっかり忘れていた。


「そうだ、ラフィージアの王! 王に頼むって……」


 ヴァドが王太子ならば、確かにラフィージアの王と面会することも可能かもしれない。しかしいきなりなぜそんな話になるのかにも驚いたが、『ラフィージアの大聖堂』ではなく『ラフィージアの王』に頼む理由が分からなかった。


「あー、それはラフィージアの大聖堂は王が管轄しているからだ」

「え? 王自らが?」

「そう。ラフィージアはアシェルーダやガルヴィオと違って、国自体はそれほど広くはない。空に浮かぶ国だからな。王城と王都……というか、街が城の周りにあるだけだ。それ以外にはない。人間の数もアシェルーダやガルヴィオよりは圧倒的に少ない。だから、公の機関などはほぼ王自らが管轄している。他国からの訪問や介入を一切受け入れていないから、おそらくアシェルーダから大聖堂への介入もないだろう」

「え、でも、それじゃあ、私たちが行っても受け入れてもらえないんじゃ」


 他国からの介入を一切受け入れていないのなら、私たちが赴いても門前払いされるのがオチなんじゃ……。そう思っていたのが分かったのか、ヴァドはニッと笑った。


「そこでだ、俺の父、ガルヴィオ国王に面会申請の書状を書いてもらうように頼む」

「こ、国王に!?」



**********

次回、3月11日の更新予定です。

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