第168話 監視報告
「そういえば例のところへの連絡なんだけど。そろそろしておいたほうがいいかなーって思ってんだけどどうする?」
オキが軽い感じで聞いてきたので、一瞬なんのことか分からなくなったが、ハッとし、皆の顔を見る。
ディノもイーザンも真面目な顔となった。
「なんて報告するつもりなんだ?」
イーザンがオキに聞いた。
「んー、ガルヴィオに渡ったことくらいは言わないと駄目だろうなぁ。後は適当になんとでもなるとは思うが」
「それさ、そのまま連絡せず放置していたらどうなるの?」
「ん?」
わざわざこちらから連絡をする必要はないのでは、と思ったのだけど、そういう訳にはいかないのかしら。
「うーん、こちらから連絡をしないと、逆に怪しまれて向こうから連絡が来るな。以前一度だけ忘れて放置してたら怒られた」
ハハハ、と笑いながら言う。
「んで、代わりの人間を寄越されそうになったから慌てて拒否ったけどな」
「ということは、やっぱり連絡はしないといけないのね……ガルヴィオに渡ったことが分かれば大聖堂にも連絡が行くかしら……」
アシェルーダでも大聖堂で監禁された。同じことが起こらないとは限らない。可能性はあるはず。
「うーん、まあ行く可能性はあるだろうね。それはもう仕方ないよなぁ。俺があんたらに姿を現していなかったにしても同じだろうし」
「そうよね……」
溜め息を吐くが、こればかりはどうしようもない。
「じゃあとりあえず俺たちの前で連絡しろ」
ディノは真っ直ぐオキを見据え言った。
「あぁ、それは分かってるから心配すんな」
オキはやれやれといった顔で手をひらひらとさせると、そこにヴァドが戻って来た。
「ん? 部屋の鍵をもらったんだが……なんかあったのか?」
ヴァドが怪訝な顔をした。
「え、あ、いや、なんでもない」
アハハ、と笑って見せたが、ヴァドは「?」と訝しんだままだった。
私たちは鍵を受け取り部屋へと別れた。今回も二人ずつに分かれての部屋だ。
部屋のなかも木造で出来ていて、なにもかもが可愛かった。ベッドも丸太を組んで出来ていて、机や椅子も全て丸太だ。出窓には花が飾られ、部屋のランプもなにやら可愛らしい形で、リラーナと二人ウキウキしたのは言うまでもない。
夕食までは少し時間があったため、先程の連絡を行うため、私たちの部屋にディノとイーザン、そしてオキがやって来た。ヴァドは宿の主人と話しに行ったそうだ。
ルギニアスは大きくなり私の横に立ち睨みを利かせている。そんなルギニアスにオキは苦笑した。
「さてと、じゃあいいか?」
全員が頷くと、オキが例の魔導具を取り出し握る。そして手を開くと球体は光り出した。
『どうした』
するとあのとき聞いた声が聞こえる。
国王陛下……。
「えーっと、とりあえずの報告ですが、あいつらガルヴィオに渡りましたよ」
『!? どうやって!?』
「んー、なんかガルヴィオに知り合いがいたみたいっすねー」
知り合いがいた、ってあんたじゃないのよ、と笑いそうになった。
「なので、今、俺もガルヴィオにいます」
『…………』
「もしもーし?」
『それで、その者たちはどこへ向かっている?』
「さあ? なんか観光を楽しんでるみたいですけどー?」
観光って! ま、まあ全く嘘でもないけれど……思わず「プッ」と噴き出しそうになり、慌てて口を押えた。リラーナも笑いそうになったのか、私の肩をグイグイと揺らし、変な顔になっていた。
『その者たちが大聖堂に向かおうとしたら拘束しろ』
「「「「!?」」」」
驚愕の顔になり思わず声を出しそうになると、オキは「しっ」と人差し指を自分の口の前に差し出した。
「大聖堂に向かったらですねー? 了解しましたー。ではー」
そう言って通信を切った。
「ちょっと! 拘束って!」
リラーナはオキに詰め寄る。オキは魔導具を片付けながら、まあまあ、と手をひらひらさせた。
「大聖堂に向かったら、だろ? とりあえず向かったにしろ、まずはヴァドに様子を伺ってもらえば良いんだよ。そっからどうするかはまた考えればいいだろ? どうせ拘束なんかしないんだし」
うーん、と全員で考え込む。ルギニアスはひたすらオキを威嚇しているけど。
「まあ、とりあえず大聖堂には行ってみるしかないしな……今、考えても仕方ないか」
うむ、とディノが考え込んだ挙句言葉にした。
「そうだね……オキがそもそも仲間ではなく、拘束を指示されていたにしても、ディノやイーザン、さらにはルギニアスもいるのに、拘束なんて無理あるしね」
「なんか、俺、馬鹿にされてる?」
オキがブスッとした顔で拗ねるように言った。
「オキも凄いとは思うけど、ルギニアスには勝てないと思うし」
しれっと言うと、はぁぁ、と盛大に溜め息を吐くオキ。
「そんな訳分からん奴と比べられてもな! 俺だって結構強いのに……」
ブツブツとずっと文句を言っている。その姿におかしくなりクスッと笑った。
「まあ、やっぱり大聖堂を目指すことに変更はなしってことで」
そう言うと、皆、頷き合ったのだった。
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