第167話 ゼスドル到着!

 順調に空を飛び続ける飛行艇のなかで、昼には皆、携帯食を取り出し齧り付く。操縦している白耳獣人も魔力は送り続けたままだが、用意してあったのだろう携帯食を齧っていた。


 ひたすら飛び続け、夕方に差し掛かろうかという頃、眼下になにやら街が見えて来た。


「ゼスドルが見えて来たぞ」


 ヴァドがそう言うと、皆一斉に眼下を見詰める。


「小さいわねー」


 リラーナが街を見詰めそう言うが、ヴァドは笑った。


「上空を飛んでいて距離があるからなぁ。実際はそんな小さい街じゃないぞ?」

「そうなの?」


 アハハ、とヴァドは笑う。


 着陸するためか、街を通り過ぎたかと思うと、大きく旋回し出した。そしてゆっくり高度を下げて行く。次第に低くなっていくたびに、確かに街が大きく見えて来た。

 街が近付いてくると次第に全貌が見えてくる。なにやら変わった形の街?


「なんか二つの街がくっついてるの?」


 眺めていると、街らしきものが二つ見える。その間には道なのかなんなのか、大きく街を分断するように走っていた。


「ハハ、ゼスドルはひとつの街だ。真ん中に走っているのは河だな。ゼスドルは大きな河の両脇に栄えた街なんだ。着水もあの河に降りる」

「「河に!?」」


 リラーナと二人で驚きの声を上げた。ガルヴィオに来てからもう何度驚きの声を上げただろうか。見るもの聞くもの全てが驚きの連続だ。


 そうやって驚いているうちに、着水の体勢に入ったようで、白耳獣人が叫ぶ。


「降りるぞ! 着水するときに少し衝撃があるから気を付けろー!」


 そう言われ、全員が身構える。


 浮遊感を感じながら、一気に高度を下げていく。そして街が近付いて見えて来たかと思うと、身体に衝撃を感じ、大きな水飛沫の音が聞こえた。


 ザバァァァン!! という音と共に、身体は大きく揺れなんとか踏ん張る。上下に細かく揺れるような感覚を覚えたかと思うと、しばらくするとそれは落ち着き、ゆっくり河の上を進む景色が見えた。


「おぉ、船みたい!」


 リラーナがそう言葉にし、私も窓から外を覗く。窓から見える河は、ガルヴィオの船に乗せてもらったときよりも、圧倒的に水辺に近く、窓からはゆらゆらと揺れる水が間近に見える。


 飛行艇はそのまま河を進み、陸地へ近付いて来たかと思うと、以前港で見たような桟橋が見えて来た。そこへ横付けに停泊する。


「お疲れー、ゼスドル到着したぞー」


 白耳獣人はこちらに振り向いた。


「ありがとなー、じゃあ、降りるぞ!」


 ヴァドは白耳獣人にお礼を言い、握手を交わすと飛行艇の扉を開け、外へと出ていく。私たちもそれに続き、お礼を言いつつ飛行艇を降りたのだった。


 降りたところは河の脇、街は……上? 河の両脇は高い壁に覆われたようになっていて、街の風景は見えない。ひたすら壁だ。

 私たちが降り立った桟橋からは階段が伸びていて、どうやらそこから上に向かうらしい。ヴァドはその階段を上がっていく。


 それに続き上がっていくと、ゼスドルの街が広がった。


「おぉ」


 全員が驚きの声を上げた。階段を全て上がり切るととても広い街が広がった。河の反対側にも同様に街が広がり、所々に橋が架かっている。


「今日はゼスドルに泊まって、明日の朝、今度は王都へ向かうつもりだが良いか?」


 ヴァドが振り向き聞く。先を急ぎたい気もするけど、ゼスドルの街も堪能してみたい気はするし……と、皆に振り向く。


「せっかくだし一日だけゼスドルの街を散策してみたいんだが」


 ディノがニッと笑いながら言った。リラーナは激しく頷き、イーザンもフッと笑った。オキは相変わらず飄々としている。


「ハハ、分かった。じゃあ、出発は明後日ってことにして、明日は散策するか」


 そう笑ったヴァドは本日の宿へと案内してくれる。ゼスドルは建物自体はそれほど高い建物はない。精々二階建て、高くても三階建てがごくまれに見えるくらいかしら。

 しかし雰囲気はなにやら今まで見た街とはまた違っていた。今まで見た街は大体が石造りの街なのだが、このゼスドルは石造りの建物もあるが、木造の建物が多いようだ。


 大きな丸太が組まれた家が多く並び、なんだか可愛らしいというか温かみを感じるというか。


 ヴァドが連れて行ってくれた宿もそんな丸太小屋のような宿だった。

 三角屋根の丸太で組まれた小屋……前世の記憶にあるロッジみたいな感じかしら。


「なんか可愛いわねー!」


 リラーナが嬉しそうに言う。


「ゼスドルは木造が多いからなぁ。昔、まだ街が小さかったときに木造の集落だったらしくてな、その名残だそうだ」

「へぇぇ」


 丸太小屋のなかへと入ると木の香りがなんだか落ち着く。建物のなかもとても可愛らしく、全てのものが木で出来ていた。ヴァドがカウンターに向かい声を掛けると、宿の主人らしき人が出て来たかと思うと、顔見知りなのかにこやかに話していた。


「ヴァドってさ、一体何者なんだろうね」


 リラーナが小声で耳打ちした。


「うん、色々謎よね」


 どの街に行っても顔見知りがいる。元々王都の人間らしいから、その行程途中の街で顔見知りがいるのは別におかしなことではないんだろうけど……そんなにしょっちゅう行き来しているのかしら。

 魔導具についてもやたら詳しいし……それだけ面白いことが好き、というだけなのかもしれないけど……不思議な人。


 まあ、謎といえばオキも謎だけど……なんでヴァドと知り合いなのかも結局よく分かってないし。


 チラリとオキを見ると、それに気付いたオキがなにか感じたのかニッと笑ったのだった。


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