第165話 飛行艇乗り場へ

 宿へと戻ると、部屋へ入ろうとした瞬間、オキが部屋から顔を出した。


「よ、なんかあったのか? 遅かったな」


 部屋へと戻ろうとしていた私たちは顔見合わせ笑った。私の前世からの話をずっと一から説明していたため、かなりの長い時間が過ぎていたようだ。


「珍しいわね、私たちのこと心配してくれてたの?」


 オキが私たちを心配するとは意外だ、とからかうように言うと、オキはムッとした。


「失礼だな、俺だって一応仲間と認識すれば心配くらいはする。ま、今まで誰かと行動を共にしたことなんて一度もないがな」


 そう言いながらヘラッと笑う。


「オキって今まで誰とも組んだことないの?」

「ないな」

「家族は?」


 何気なく聞いてみた。あまりにオキのことを何も知らない。だからつい踏み込んだことを聞いてしまった。


「家族……は、いないな」


 意外とすんなりと答えたオキ。


「家族は? 家族以外の誰かがいるってこと?」

「ハハ、そんなに俺に興味ある?」


 ニヤッとしながら顔を覗き込まれ、後ろに後退るとルギニアスが手刀を振り下ろした。しかし、今回は予想していたのか、オキは素早く後ろに飛び退いた。


「そんな簡単に何度もやられると思うなよ?」


 ワハハと笑いながら部屋へと戻ろうとするオキ。


「もう遅いし、早く寝ろー。こんなところで長話をしていたら迷惑だろうが」


 そうやってひらひらと手を振り、部屋へと戻ってしまった。確かにここは宿の廊下。しかも夜。話し声はそれなりに響き渡る。まさかオキにそんな常識的な注意をされるとは、と私たちは苦笑した。


 ディノとイーザンとも「おやすみ」と別れ、私とリラーナは共に部屋へと入った。ルギニアスは再び小さくなり、私のベッドの枕元で眠る。


 結局オキにはなにやらはぐらかされてしまったわね。やっぱりよく分からない人。




 翌朝、ヴァドの案内で朝食を食べ終わると、王都方面へ移動するため飛行艇の乗り場へと向かった。

 ザビーグの街並みを眺めながら、少し小高くなった場所を目指す。街の外れにある乗り場。歩くうちに次第に店が減って行き、賑やかさもなくなってくると、開けた場所に出る。周りは草原が広がり、しかし、離着陸するための場所だろうか、草原の真ん中に整地された地面が現れ、そこには草などは生えていなかった。


「飛行艇って水陸両用なのよね? 海から飛び立つんじゃないんだ」


 リラーナがヴァドに聞く。確かに水の上から飛び立つのかと思っていたら、陸だった。


「あー、水陸両用だからといっても、毎回水辺から離着陸するわけじゃない」


 そう言いながら笑う。


「ザビーグでは陸で離着陸だな。王都へ行くまでに一度ゼスドルという街に降りるが、そこは水辺での離着水だ」

「へぇぇ」

「王都に一足飛びには行けないのね」


 歩きながらヴァドに質問が続く。目の前の平原には遠目に何台かの飛行艇が見えた。


「王都までは距離があるからな。長距離移動するにはかなりの魔力が必要となる。王都までの距離を飛べるほどの魔力持ちはいない。だから途中のゼスドルって街で一度降りて、違う飛行艇に乗り換える」

「同じ飛行艇は使えないの?」

「うーん、使えないことはないが、やはり操縦する者を統一しているほうが安定するんだよな」

「安定……」


 使用する者が統一されているほうが安定する、という言葉を聞いて、温泉の棚の鍵を思い出す。あれは個人の魔力を判別しているようだった。ということは、飛行艇の魔石を扱うにも個人の魔力を判別していて、同じ人間が扱うほうが安定する、ということかしら。


 色々考え込みながら歩いていると、ルギニアスにビシッと頭を叩かれた。


「ちゃんと前を見て歩け」


 立ち止まったヴァドの背中に思わず激突しそうになり、ルギニアスに首根っこを掴まれ引き戻される。


「ル、ルギニアス……有難いんだけど、首絞まる……」


 ぐえっとなりながら声を出す。ルギニアスはパッと手を放すとフンと横を向いた。


「さて、着いたぞー」


 ヴァドの前には数台の飛行艇が並び、その背後には一階建ての建物が見えた。そのなかから操縦者だろうか、一人の獣人男性が出てきた。


「さっきも言った通り、まずはゼスドルって街を目指す」


 ニッと笑ったヴァドは、その獣人の傍へと歩いて行った。


「やあ、ヴァドさんじゃないか。王都へ戻るのかい?」


 尖った白い毛並みの耳に、白いふっさふさの尻尾。もふもふしたい……とか考えてしまう……。

 ヴァドと親し気に話すその獣人はこちらにちらりと視線を向けた。


「珍しい、人間の客か。アシェルーダから来たのか?」

「あぁ。こいつらと王都を目指しているんだ」

「へぇ、ヴァドさん、相変わらずあれこれなんか変なことしてるよなぁ」


 そう言いながら笑う獣人。


「変なことって失礼だな。俺は楽しいことしかしない」

「アッハッハ、それは間違いないね」


 和気あいあいと楽しそうに笑う二人は、ひとしきり挨拶を交わすと私たちに振り向いた。


「よし、じゃあゼスドルへ向かいますか!」


 白耳の獣人はニッと笑った。


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