第156話 連携での勝利

 クルフォスを締め上げているドグナグーンに向かい、獣人たちは攻撃を開始する。しかし硬い鱗が剣を通さない。ドグナグーンはクルフォスを締め上げたまま海面で暴れ回り、激しく水飛沫を上げる。


 イーザンが魔導剣から雷撃を飛ばし、ドグナグーンは一瞬びくりと動きを止めた。その瞬間を待ってましたとばかりに、ずっと船に残っていたオキが大きく跳躍し、勢い良くなにかを投げた。一発だけではなく、何度も投げる仕草をしている。なにを投げているのか全く見えない。


「毒針だな」


 ルギニアスがオキを見ながら呟いた。


「あぁ、あの私を助けてくれたときの」


 猛毒が仕込んであるというオキしか持たない武器。それをよく見るとどうやらドグナグーンの眼に向かって投げているようだ。

 眼を無数の毒針に刺され、悶え苦しみ出すドグナグーン。徐々に片目の色が変わって来たように見える。毒に侵されだしているのか。


 苦しみ悶え、クルフォスから身体を離した。そして海中へと潜ろうという仕草を目にすると、獣人たちは魔法を撃ちこんで行く。雷撃を中心に、眼と口、それに耳や鼻なのだろうか、なにやら穴のようなものが見える部分に狙って打って行く。


 イーザンはオキが打ち込んだ毒針に狙いを定め雷撃を撃ち込んでいた。毒針を伝うように雷撃がドグナグーンの内部に撃ち込まれる。全身に痺れが回ったかのように、痙攣するドグナグーン。ディノは大きく跳躍すると、その反対側の眼に向かって、力の限り剣を突き刺した。

 ブシュッと血が噴き出し暴れ回るドグナグーン。徹底的に眼に雷撃を撃ち込んでいく。そしてドグナグーンは大きく身を捩ったかと思うと、バシャァァアアンと海面に身体を打ち付け倒れた。


 動かなくなったドグナグーンは尾が沈みかけていた。獣人たちはまだ海面に浮いているクルフォスとドグナグーンの上に降り立つと、急いでなにかを設置し、そして再び跳躍すると船へと戻って来た。


 ディノとオキも大きく跳躍をし、船へと戻る。


「皆、お疲れ様!! 大丈夫!? 怪我はない!?」


 駆け寄り怪我がないか身体を確認する。


「ハハ、なんとかな」


 ディノが笑いながら言い、そして海面へと振り向いた。


「しっかし、あんな大物を二匹も……獣人たちの連携が凄くてビビった」

「あんたもなかなかだったじゃないか」


 ディノが呆気に取られた顔のままそう呟くと、オキが笑いながら言った。


「うん、確かに獣人の連携も凄かったけれど、ディノやイーザン、悔しいけれどオキも、初めてとは思えないくらい連携して戦っていたじゃない」

「そうか?」


 嬉しそうなディノと、少し不満そうなオキ。


「もうちょい俺のことも素直に褒めてくれても良いんだぞ?」


 拗ねるような顔でそう呟くオキは今までの飄々とした態度と違い、本心から拗ねているように見えて笑った。


「フッ。オキも凄かったよ。イーザンの正確な攻撃も凄かったしね! 皆、お疲れ様!」


 ハハ、と笑い合い、そして海面に浮かぶ二匹に再び目をやった。


 獣人たちが急いで設置していた魔導具は、船と二匹を固定するためのものだったらしい。なにやら大きな網のようなものが二匹の巨体の下に張り巡らされていた。


「あの二匹ってどうするんだろ」


 リラーナが二匹を見詰めながら呟いた。


「素材になるって言ってたわよね」


 船長がそう呟いたことで、回避しながら進むのではなく戦うことになったのだ。


「そうだ、素材になるんだ! だからちょっと時間がかかって悪いが解体作業をする」


 振り向くとヴァドがニッと笑っていた。どうやらヴァドも怪我はなさそうだ。獣人たちもやはり慣れているのか怪我を負っている人は見掛けない。


「解体って、あんな大きいものをどこで?」

「ん? 海の上でに決まってるだろ?」

「海の上!?」


 ヴァドはなにを驚いているのか分からないといった顔。私たちは全員唖然としてしまった。


 船に戻り少しの休憩をしていた船員たちは、再び海へと戻るとクルフォスとドグナグーンを足場として動き回り、素早く解体作業を行っていた。


「クルフォスは爪くらいしか使えないんだが、ドグナグーンは硬い鱗は武器や防具に加工出来るし、背びれは耐水性の強い鞄や靴として加工出来る。肉は食えるから食料にもなるしな」

「へぇぇ、余すところなく素材に出来るのね」

「あぁ、だからドグナグーンは遭遇する率は少ない上に、良い素材が手に入るから、高値で売れるんだ」

「だから逃したくはない、と」

「ハハ、そういうことだ」


 海面へと目をやると、色々な道具を持った獣人たちがあっという間に解体していき、その素早さに感心するのだった。


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