第157話 ガルヴィオ到着!

 丸一日をかけ解体作業を行っている間は、血の匂いを嗅ぎ付けてか、他の魔魚が寄って来たりとしていたため、それを撃退する船員と、解体作業を行う船員とで作業を別れて行っていた。

 アシェリアンの神殿が近いためか、海は相変わらず荒れていて、解体作業も大変なのではと思っていたが、慣れているのか、船員たちは難なくこなしていた。


 そうして全ての解体が終わり、再び出航し、その後は何事もなく平穏な船旅となった。途中何度か魔魚が乗り上げて来たりはあったのだが、それこそよくあることのようで、驚くのは私たちだけで、獣人たちは気付いた者があっという間に対処していた。


 食べられる魔魚を捕まえたときには、巨大な焼き魚が出来上がり、その日は豪華な夕食となって皆が喜んでいた。

 魔魚が捕まるたびに私たちはまじまじとその魔魚を観察し、普通の魚となにが違うのかを話し合ったりしていた。



 そうやってエルシュを出航してから二十日ほどが経ったころ、ついにガルヴィオの港町、ザビーグに到着した。風が冷たく感じ、船から身を乗り出し遠目に見える陸を眺めた。獣人たちも同様にそちらへと視線を移すと、「着くぞ!」と声を上げだし、慌ただしくなる。


「ザビーグだ! 帆をたため!」


 船長の合図と共に船員たちは一斉に作業を開始する。何人かの船員が帆をたたんでいき、港にも船に向かい合図を送る者が立っている姿が見えた。


 合図に合わせるようにゆっくりと港へ侵入していく船は一番大きな桟橋の元へと入って行き、そして停泊した。


「着いたぞ!! 荷下ろしを開始しろ!!」


 船長の号令と共に船の入り口が桟橋へと繋がり、港から上がってくる獣人と船の船員たちが次々に作業を素早く開始していく。その姿を感心しながら見詰めていると、ヴァドが笑いながら声をかけてきた。


「さて、ようやくガルヴィオに到着したぞ。お前たちはこれからどうするんだ?」


 ヴァドからそう問われ、私たちは顔を見合わせ頷いた。


「大聖堂に行きたいの。ガルヴィオの大聖堂はどこにあるの? やはり王都かしら?」

「大聖堂? そんなところに行きたいのか? アシェルーダにもあるんだろ?」

「そうなんだけど、ちょっと行けない事情があって……」

「ふーん? まあなんでも良いが、大聖堂なら確かに王都だな。ここザビーグから少し距離があるが」


 皆と顔を見合わせるとディノが聞いた。


「王都への行き方を教えてもらえないか?」


 そう言うとヴァドはちらりと私たちを見ると、少し考え込むような仕草をし、再びこちらに向く。


「俺が連れて行ってやる」

「「「「え?」」」」

「俺が王都まで連れて行ってやるよ」

「え、良いの!?」

「あぁ」


 ニッと笑ったヴァド。ん、でも……


「本当にヴァドってなにしてる人……? 良いの? 私たちに付き合ってて」

「ん? あー、まあ大丈夫だ」


 なんかよく分からない人だな。訝し気にしていると、ヴァドはアハハと笑う。


「そんな心配すんな、大丈夫だから。俺も王都の人間だ。元々帰るつもりにしていたからついでだよ」

「そうなんだ」


 王都の人間か、でもそれでもなんで王都の人間が船に乗っていたのかは謎だけど。やはり外交官? それともただ面白いことが好きってだけなのかしら。


「じゃあとりあえず王都へ出発する前にザビーグを散策でもするか?」


 そう言って自身の荷物を担ぎ上げたヴァド。なんだか私たちよりも楽しそうなヴァドに、何者かなんてどうでもいいか、と笑ったのだった。



「船長! またな! 今回は良い収穫があった!」


 私たちも自身の荷物を担ぎ、ヴァドは船長に向かって大きく手を振った。


「おー、なんかよく分からんが良かったな! アハハ! またよろしく!」


 船長も豪快に笑い、そして私たちも声を張り上げ挨拶したのだった。


「ありがとうございました!!」

「あぁ! またアシェルーダに帰るときには声をかけろ!」


 そう言って手をひらひらとさせた船長と、そしてまだ働いている船員たちにも挨拶をしつつ、船を降りた。



 港に降り立ち、真っ先に目に付いたのはやはり獣人! どこを眺めても獣人! 様々な耳や尻尾。それに獣の姿そのままの二足歩行獣人までいる。


「す、凄いわね。獣の姿のまま服着てる……」


 リラーナが唖然としながら呟いた。


「アッハッハ、そういや完全獣姿のやつは船員にはいなかったな」


 私もリラーナも激しく頷き、ディノやイーザンも釘付けになっている。オキはあまり興味がなさそうだけれど。ルギニアスも興味がないのか鞄のなかだ。


「俺たちは獣姿のままか、半獣姿かを自分で自由に変えられるからな」

「へぇぇ! 自由なんだ!」

「え、じゃあヴァドも獣姿になれるの!?」


 興味津々に聞くと、ヴァドは苦笑した。


「あー、なれるけど、今はならないぞ?」

「え? なんで?」

「服が合わず素っ裸になるからだ」

「「!!」」


 リラーナと二人で固まった。そんな私たちを男性陣は苦笑しながら眺めるのだった。


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