第154話 魔獣と魔魚の対決
船の先に見える大きな影が二つ。巨大な鷲のような魔獣と同様に巨大な蛇のような魔魚が激しく争い合っている。
「な、なにあれ……」
「クルフォスとドグナグーンだな……」
「クルフォスとドグナグーン?」
海から這い上がるように身体を覗かせているドグナグーン。蛇とは思えないほど太く巨大で、黒い鱗らしきものは光を反射し黒光りしている。背びれなのか頭から尻尾にかけて長いひれが鋭い刃物のように連なっている。海面を激しく打ち付ける尻尾の先端にもまるでサソリの尻尾のような太くて鋭い棘が見えた。
クルフォスと呼ばれた大きな鷲の魔獣に向かって、大きく口を開け鋭い牙を剥き出しに襲い掛かっている。
クルフォスという鷲のような魔獣は、今まで見た魔獣よりも遥かに大きかった。ドグナグーンもこのガルヴィオの船をも叩き壊せそうなほどの大きさだが、クルフォスもそれに負けず劣らずの大きさだ。大きく広げた翼は船の帆よりも大きい。
クルフォスの顔は鷲と似ているようだがどこか違っていた。嘴はさほど長くもなく短い。鳥類特有の長い嘴がないため、平坦な顔に見える。どちらかといえば梟の類にも見える。それが身体の大きさにアンバランスで違和感を覚える。
クルフォスは素早く飛び回り、鋭い爪でドグナグーンに攻撃している。そしてなによりも戦いに激しさが増している原因はお互い魔法を発動させているからだった。
クルフォスは激しく炎を噴き出し、ドグナグーンは雷撃を放っていた。
ドグナグーンが身体を捩らせ激しく海面に打ち付けるたびに、海面は大きく波を立て、船を激しく揺らす。
「な、なんであんなに争っているの!?」
皆が驚愕の顔で見詰める。
「さあな……この辺りはドグナグーンの領域だ。たまたまクルフォスがその縄張りに入り込んで来てしまったのかもな」
「魔導具に反応していたのはあの二匹?」
「いや、それはどうだろうな。最初はドグナグーンに反応しただけかもしれない。やつらはたまに海面に出てくる。それに反応したのかも。エルシュを出航してからもう十日は経っているからな。あのときの魔導具の反応がこの二匹だったとは思えない」
確かにもし長い時間争っていたにしても、さすがに十日以上争っているとは考えにくいわよね。ということは、ドグナグーンだけでなくクルフォスまで増えてしまったということ!?
「ど、どうするの?」
ヴァドを見ると落ち着いていた。他の船員たちもそれほど慌てている様子はない。慣れているのかしら……。
「うーん。回避しながら進むのが一番だが……」
ヴァドは船長を見た。船長は二匹の争いを見詰めている。
「ドグナグーンは良い素材になるんだよなぁ」
船長がぼそっと呟いた。
「!?」
私たちは耳を疑ったが、ヴァドは声を上げて笑い出した。
「船長ならそう言うと思った!」
「ハハ、バレたか」
そう言って笑い合っている。船員たちもよくあることなのか、同様に笑っている。
「お、おいおい、まさかあの二匹を倒すつもりか?」
ディノが若干顔を引き攣らせながら聞いた。
「お前らも参加するだろ?」
ニッと笑うヴァドの挑発的な目に、ディノは苦笑し、イーザンは溜め息を吐いた。
「ガルヴィオの連中がどんな戦い方をするのか見物だな」
苦笑していた顔から一転、ディノはニヤッと笑った。
「ちょ、ちょっとディノ! なに乗り気になってるのよ!」
「ん? だって結局ガルヴィオの連中が戦うなら俺たちも参加するしかないだろ。船で隠れていたって、ガルヴィオのやつらが負けたら俺たちは船を失うんだし」
「それはそうだけど……」
ガルヴィオの船である以上、私たちがどうこう言える立場ではないことは重々分かってはいる。でも避けて通れるかもしれないものをわざわざ攻撃しに行くって……。
「諦めろ。ガルヴィオのやつらは能天気ではあるが、一度決めたら覆すことはない」
イーザンが呆れたように溜め息を吐きながらも、私の肩に手を置いた。
「失礼なやつだな! まああながち間違ってもいないがな! アハハ!」
そう言って豪快に笑うヴァド。自分たちで能天気って認めちゃったよ……。まあでもこれだけあっけらかんと言われると、なんとかなりそうな気がしてくるから不思議よね。
「最終どうにもならなかったら、俺が吹き飛ばしてやる」
さらっと耳元で怖いことを言うルギニアス。ま、まあ、確かに最終兵器ルギニアスがいるから大丈夫かしら……。
「よし! じゃあ気合い入れろ! 行くぞ野郎ども!!」
船長の雄叫びが響き渡った。
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