第153話 獣人の得意・不得意
特に危険なことなどもなく平穏な日々が何日かと続き、私たちは船員たちの手伝いをしながら日々を過ごしていた。ディノとイーザン、オキは甲板での力仕事。私とリラーナは厨房で手伝いだったり、甲板で掃除をしたり、と楽しくもあり忙しく過ごした。
船員たちともそうやって過ごすうちに次第に仲良くなっていき、ガルヴィオの話を聞いたり、逆にアシェルーダの話をしたり、と様々な話をするようにもなっていった。
リラーナはやはりというかなんというか、ガルヴィオにある変わった魔導具の話などを興味津々で聞いていた。ディノやイーザンは力比べをしたり、体術勝負をしたり。獣人の身体能力の高さが分かり、私たちは驚くばかりだった。
「本当に凄いわね、体術ではディノも負けるんじゃない?」
「うぅ、そんなことない! って言いたいところだが、体格差があり過ぎる上にあの柔軟性や跳躍力がなぁ」
ディノは悔しそうだ。
何度となく勝負をし、良い勝負をしていたが、武器なし体術のみで勝負をしたディノは、猫型の獣人に負けた。
その獣人は、体格自体はそれほど大きくもなく、ディノとさほど変わらなかったが、ディノの攻撃を躱すときの柔軟性が異様なほどだった。
ディノの蹴りや拳の隙間を縫うように身体をくねらせ、滑るように抜けていく。ディノも負けてはいなかったが、それでもその獣人の身軽さにかなり苦戦をしていた。
そして尻尾までをも駆使され、ディノは予期せぬところから現れる尻尾に型を崩され倒された。
「くっそー!!」
ディノがあからさまに悔しがる。その姿に私たちは苦笑するが、これほどまでに強いとなると、本当に獣人たちが攻め入って来たら、とてもじゃないけれどアシェルーダには防ぎきれないわよね。
「まあ、そんな悔しがるな。剣や魔法ではおそらく俺たちは勝てない」
ヴァドが笑いながらディノを宥めた。他の獣人たちも笑いながら頷いている。
「俺たちは、物づくりのような作業は得意だが、剣や魔法は苦手だからなぁ」
そう言いながら笑う獣人。
「物づくりなんて繊細なことは出来るのに、剣や魔法が苦手ってのも面白いわねー」
リラーナが首を傾げながら言った。確かに。繊細な物づくりは出来るのに、剣や魔法は出来ないというのも不思議な感じ。
「なんだろうな、瞬時に頭を使うのが苦手なのかもな」
アハハ、とヴァドが笑う。
「物づくりは順序立ててじっくり考えられるけど、剣や魔法で戦う場合、すぐさま考え動かないと駄目だろ? 体術は俺たち本能で動いているようなものだからな。自然に身体が動くが、剣や魔法は習得し、頭を働かせ身体を使わないといけない。そういったものは苦手なんだよな」
ヴァドがそう説明すると、他の獣人たちもうんうんと頷いている。
頭を使うことが苦手なのかー、そこは動物的考えなのかしら、とか失礼なことを考えてしまう。
「要するに単純なんだよ」
失礼かと思って黙っていたのに、オキがしれっと口走った。獣人たちが怒るのでは!? と、一瞬びくついたが、獣人たちは大笑い。
「アッハッハッ! 単純で結構! 小難しいことは苦手だ! 楽しけりゃなんでも良いがな!」
陽気ね。この大らかな国民性が獣人の良いところなんだろうな。
あ、以前、面白いことが大好きな人がいるって言っていたのは、もしかしてヴァドのことだったのかしら。それが当たっているなら、確かにヴァドは陽気で面白いことが大好きそうだ、と納得したのだった。
「もう少しで例の海域に到達するぞ!」
船長が叫ぶ。『例の海域』とは、魔獣か魔魚が感知されたという海域だ。この辺りはどうやらアシェリアンの神殿が近いのか、方位計が狂い出すらしい。だからその海域はなるべく避け、遠回りして渡って行くらしいのだ。
しかしどうしても通らねばならない航路に魔獣らしきものが出現している、との話だった。
海は荒れ出し、波が高くなる。これはアシェリアンの神殿のせいらしい。神殿近くは方位計が狂うだけでなく、海が荒れている。いかなるものも神殿へはたどり着けないようになっているのだ、と聞いた。だから神殿へは大聖堂からでしか行くことは叶わないのだ。
ガルヴィオの船に備えられた方位計は、神殿を指すものとガルヴィオを指すものがあるらしい。それらを見比べ、ガルヴィオの位置を確認しつつ進む。そのためガルヴィオの船は神殿近くを通ったにしても、遭難することも難破することもなく無事に航海を続けて来たらしい。
しかし今回は魔獣らしきものが出ている可能性。それが航路を阻む可能性がある。
船員たちは慌ただしく配置についた。
激しく船が揺れ、吹っ飛ばされないように柱や縁に掴まり踏ん張る。甲板にも水飛沫が上がる。
「船長!!」
ヴァドが叫んだ。
「魔獣と魔魚が争ってる!!」
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