第150話 出航!
船内を一通り説明され、甲板へと戻ったと同時に船が動き出した。
「うわっ」
ぐらっと足元を取られふらつく。皆が驚き踏ん張ると、ヴァドとオキが笑った。
「しっかり踏ん張らないとコケるぞー」
周りを見回すと景色が動いているのが分かった。船の縁へと掴まりながら下を覗き込むと、大きく波を立てながら船がゆっくりと動き始めていることが分かる。
船尾から後ろに下がるように進み、旋回しているようだ。そしてゆっくりと旋回を終えると、船長が声を張り上げた。
「帆を下ろせ! 出航だ!」
その合図と共に船員は雄叫びを上げるかのように声を上げ、一斉に帆が下ろされた。
巨大な帆は大きく広がり、風を受け、大きく膨らんだ。そしてなにやら気配を感じたかと思うと、あちこちに設置されている魔石が一斉に発動し始める。
その瞬間、船は大きく波を立て海の上を滑るように進みだしたのだった。
「うわぁあ!! 凄い!!」
船長室の上は見晴らし台となっている。リラーナと二人で興奮しながら、あっという間に港を離れていく光景を見詰める。エルシュの街並みがどんどんと遠ざかっていく。風が強く、髪が煽られる。水飛沫が飛び散り、波の音が響く。
青い海はエルシュが遠ざかるにつれ、どんどんと濃い青になっていき、空の青さと海の青さしかない景色が不思議で仕方がなかった。
「アシェルーダがどんどん離れていくわね」
リラーナが呟いた言葉に私も同じように思っていた。なんだかしんみりとしてしまい、思わずリラーナと手を繋ぐ。
「父さんも皆も元気にやっているかしら」
「うん」
「今度はいつアシェルーダに帰って来られるかしら」
「うん……」
ダラスさん、王都の皆、どうしているかしら……。何事もなく元気にしてくれているかしら。あのとき私を送り出してくれた。大聖堂からの追手もどうなったのか。不安なこともたくさんある。でももう後戻りは出来ない。お父様とお母様の行方を探すためにアシェルーダを離れた。
「巻き込んでごめんね……」
リラーナは別にガルヴィオに行く必要はなかったかもしれない。いくら物づくりの得意な国を見てみたいと言っても、国を離れてまで行く必要なんて、父親と離れてまで行く必要なんて……なかったんじゃないのかな……。
「なに言ってんのよ! 別に巻き込まれたなんて思ってない! 私は私の意思でルーサと一緒に来たのよ! 私を馬鹿にしないで!」
リラーナは私の手をぐっと握り締め、真っ直ぐ見詰めると涙目で怒った。
「リラーナ……ごめん、そうだよね。うん、ありがとう」
「ハハ、俺たちもな! 巻き込まれたんじゃない、自分の意思だ。勘違いするなよ?」
ディノとイーザンが私たちの後ろにいた。そして私の頭に手を置くとワシワシと思い切り撫でた。
「ちょ、ちょっと! ぐちゃぐちゃになる!」
「ハハハ! ま、ルーサは色々考え過ぎだ。あんま悩んでると禿げるぞ?」
「!!」
「フッ」
イーザンにまで笑われた!! 皆に笑われ、頭をワシワシと撫でられ……そんな優しい仲間に出逢えて、私は本当に良かったと心から思ったのだった。
「お前たち、仲良いんだなー」
ヴァドが私たちのそんな姿を見ながら笑った。
「エルシュのほうばかり見てないで、船首のほうでも見てみたらどうだ? 海を斬り裂き進むのを見るのも迫力あるぞ?」
そう言われ、リラーナと二人で顔を見合わせ笑った。そして足元に気を付けながら船首のほうへと向かう。船長室の前には大きな方位計があり、その横には巨大な舵がある。船員は方位計を確認しつつ舵を握っていた。
それを横目に見ながら船首へと向かうと、船の先には魔石が光る。青い石だから水系の魔石かしら。他の魔石はまた違う魔力を感じる。色んな魔力の魔石が使われている。それが不思議だった。
船は海を割るように進み、大きな水飛沫をあげ進む。船の先にはなにやら黒い影が見えた。
「あれ、なにかしら?」
指差し、皆もそれを見詰める。
「魔魚だな」
「「魔魚……」」
イーザンが言った言葉にリラーナと二人で顔を見合わせた。
「あの大きさなら恐らく魔魚だ。普通の魚もいるだろうが、この船の速度と同じ速さな上、あの大きさだからな」
「あー、あれくらいの魔魚なら襲って来たりはしないから安心しろ」
ヴァドが私たちの会話を聞いて答えた。
「あの程度のやつならこの船の大きさに乗り上げては来られないからな」
「乗り上げてくるのもいるの!?」
「ん? あぁ、いるぞ」
リラーナと二人固まる。
「大きさもだが、やはり魔力が強い魔魚は跳躍して乗り上げ襲って来たりもする」
「そ、そうなのね……」
リラーナの顔が引き攣る。
「ハハ、大丈夫だ。そのための魔導具もあるし、俺たちはそう簡単にはやられない。ディノやイーザンもやり手だろ? オキはまあ……」
そう言いながらチラリとオキを見たヴァドは苦笑した。
「オキはやる気がないだろうから戦力外だな」
全員でオキを見ると、こちらの視線に気付いたオキはヘラッと笑いながら、手をひらひらとさせていた。
それを見た私たちは全員苦笑……オキは期待しないでおこう。
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