第149話 船内
ヴァドはニッと笑うと再び話し合いをしに船内へと戻った。そしてしばらくすると再び現れ、二日後に出航することになったと言った。
私たちはそれに合わせ、アランとララさんに別れを告げに行き、最後の夜には再びララさんのお店でアランと共に夕食を共にした。新鮮な魚料理を堪能し、アランとは魔石について語り合い、ガルヴィオに渡ることを話すと驚いた顔をされたが、頑張れと応援してくれた。
そしていよいよ出航の日を迎える!
私たちは宿から荷物を引き上げ、港へと向かう。港にはすでに船員たちが出航のための準備か、船の上で忙しそうに動き回っていた。
「よう、遅いぞ! 早く乗れ!」
ヴァドが船の上から私たちを見付けると手を振った。私たちは桟橋を渡り船へと乗り込む。オキはすでに船へ乗り込んでいた。
「遅いぞー」
ニッと笑ったオキは船の縁に座り、こちらに向かいひらひらと手を振っていた。
「オキ……いつの間に……」
ディノは呆れたような顔になり、リラーナは嬉しそうにキョロキョロしている。
「とりあえずお前らの部屋に案内するからそこに荷物を置いておけ」
「船内に部屋があるの?」
「ハハ、まあ狭いがな」
ヴァドは「付いて来い」と言いながら歩き出す。甲板では多くの獣人が作業に忙しそうだ。甲板から見上げる帆柱は太く高い。見上げると船員たちが帆を広げようとしているのか、上部に登っていた。
船尾へ向かい、ヴァドは一つの扉を叩き、なかへと声を掛けた。
「船長、ガルヴィオに行きたいって言ってたアシェルーダの人間だ」
声を掛けた先には茶色の髪色に同じ色の丸い耳、金色の瞳をしたヴァドよりも年上そうな獣人がいた。
「おー、そいつらか、連れて行くならちゃんと面倒みろよー」
「ハハ、分かってるって」
厳しい人って聞いていた気がするんだけど、気さくそうな人だな。挨拶を交わし、そのままヴァドに連れられ、船長室の横にある階段を降りて行くと、なにやら上から怒声が聞こえた……。
階段を降りると船内が広がる。さらにもう一階分下があるようだが、船員の部屋は今いる階で、さらに下は荷室らしい。そしてさらにその下には動力部が……リラーナがうずうずしている。
甲板で忙しくなく走り回っている船員たちの足音が天井で響き渡っている。思わず上を見上げてしまう。
「ハハ、うるさいかもしれんが、船はこんなもんだからな? 慣れろよー?」
「うん、びっくりしただけだから大丈夫。すぐ天井に人の気配を感じるって面白いね」
そうやって辺りを眺めながら歩くうちに、ヴァドが振り向き促した。
「ここの部屋を使ってくれ。女だからと分ける部屋はない。すまんな」
「ううん、私たちが無理を言ったんだから、それは分かってる」
船員は男ばかりだった。ならば女性用に部屋などないだろうことは容易に想像がつく。部屋を別で与えてくれるだけでも有難い話だ。
ディノたちは向かいの部屋のようだ。
「ルギニアスはどうしたんだ?」
「あ」
ヴァドがキョロッと見回し、ルギニアスの姿が見えないと疑問の目を向けた。
「ルギニアスはここ……」
鞄のなかからルギニアスを引っ張り出すと、めちゃくちゃ嫌そうな顔をしていた。船のなかでは傍にいやすいように小さい姿のままでいるらしい。
「うおっ、こ、これがルギニアスか!? はー、面白いやつだな」
身体を屈ませ、顔を近付けたヴァドは、ルギニアスをじーっと見詰めた。ルギニアスは明らかに嫌そうな顔をし、小さいまま片手を持ち上げ、ヴァドに掌を向けた。掌に魔力を込めたのが分かり、ヴァドが慌てて顔をひっこめる。
「お、おい、こんなところで魔法を放つなよ!?」
「フン」
ルギニアスは魔力をおさめると私の肩に乗った。
「あー、とりあえずじゃあ荷物を置いたら他を説明するから付いて来い」
苦笑しながらヴァドは気を取り直す。私たちは言われるがまま部屋へと荷物を運び入れる。部屋のなかは簡素な二段ベッドが両脇に並び、人ひとりが通る程度の通路があるだけで、部屋はベッドだけでいっぱいだった。部屋の一番奥には小さな丸い窓があり外が見える。
入り口付近の少しばかりある場所に荷物を置き、再び外へと戻った。
「風呂はない、浄化魔法を使えるやつがいるから、全身浄化してもらえ。トイレはこの階の通路前後に二ヶ所だ。階段は船首、船尾、両方から降りられる階段があるが、食堂は船首側にある。船員は交代制で作業をしているから、いつでも食事は出来るようになっている。好きなときに食べに行くといい」
歩きながら食堂も見せてくれ、説明をしてくれる。それなりに広さのある食堂は扉と反対側の奥に厨房らしきものがあったが、街で見かけるような店とは違い、厨房も丸見えだ。その場で作っているのが見える。料理をカウンターに並べ、各々自分で取って行くようだ。
「この階の下は荷室だから降りるなよ?」
リラーナが動力部を見たくてうずうずしているが、さすがにそれは見せてもらえなさそうだ。しかし以前外から船を眺めたときに感じた魔石はどうやらその動力部にあるようで、大量の魔石の気配が船底から感じる。どういった造りになっているのか私も気になってしまったのだった。
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