第140話 飛行艇
「飛行艇……か?」
「飛行艇!? あれが!?」
ディノも空を見上げながら呟いた。建物の隙間から一瞬見えただけだったので、それがなにかは全く見えなかった。しかし空をああやって過ぎ去るなんて普通ではありえない。ディノもそう思ったのだろう。エルシュの空を過ぎ去るようなもの、それは『飛行艇』ではないのか、という考えに至ったのだということはすぐに分かった。
「見に行ってみよう……なにか違和感を感じる」
「違和感?」
「あぁ。飛行艇やらが飛んでいるところを俺は見たことはないが、どうもなにか変な気がした」
ディノの言葉に私も不安を抱き、空を過ぎたものが行ったであろう方向に走る。エルシュの街の人たちもなにやらざわざわとざわめき出す。リラーナとイーザンはこれに気付いたかしら……気付いていなかったらそのまま魔導具屋にいるわよね。チラリと背後を振り向き二人の姿が見えないことを確認しつつディノのあとに続いた。
商店街を抜けて行くと、大きな通りには人が集まりざわざわとしていた。獣人たちも顔を見合わせたり、走り出したりしている。それに続くように私たちも皆が向かうほうへと向かう。
どうやら騒ぎのもとは海辺に続いていた。港よりも離れた場所にそれはあった。
波が打ち寄せるなか、船よりはかなり小さいが、それでも何人の人が乗れるのだろうか、と思える大きさの乗り物らしきものが砂浜にめり込むように止まっていた。
「飛行艇……」
それを目にしたとき、前世の記憶を薄っすらと思い出す。空に飛ぶ大きな飛行機を。それとはなんとなく形が違うような。翼は同じようなものだが、本体の底部分がなにやら船のような形状。サクラの記憶でも飛行艇は見たことがなかったが知識だけはなんとなく覚えている。確か水の上にも浮かぶことが出来るのだったかしら。
この世界の飛行艇がサクラの記憶にある飛行艇と同じものであるかは分からないが、今目の前にある飛行艇は墜落してしまったのか、明らかに正常な着陸とは思えない。
多くの人が見詰めるなか、何人かの人たちと獣人の人たちが駆け付けている。ディノも私に向かい「ここにいろ」と言うと、走って向かって行った。
飛行艇からは乗っていた人だろうか、なんとか這い出すように前方の扉を開け出て来た。それを助けるように周りの人たちが助けている。駆け寄った人たちと比べると飛行艇の大きさがより分かる。船よりは小さくとも、十数人は乗れるだろうか、というほど本体部分は長く人が立っていられそうな高さがあった。
「どうしたんだ!?」
ディノも同様に助けながら声を掛けている。
「あぁ、すまない……途中で魔獣に襲われて……魔導具が発動し撃退出来たが動力部をやられてな……なんとかエルシュまで戻れたが不時着するはめになった……」
「魔獣……」
その言葉に周りの人たちがざわざわとし出した。
「一応街の守衛に伝えといたほうが良いかもな」
ディノがそう言葉にすると、エルシュの人なのだろう、一人の男性が頷きその場から走って行った。
獣人たちもなにやら話し合い、その後一人が走り出したかと思うと港へ向かって消えて行った。そして残った獣人は飛行艇を確認していく。
飛行艇には二人乗っていたらしく、二人とも街の人たちに支えられながら治療へと向かって行った。
飛行艇自体はどうやら翼の下辺りに傷があり、そこを攻撃されたのだということが分かったようだ。次第に人もまばらになってきたかと思うと、先程港に駆けて行った獣人がもう一人と連れ立って帰って来た。
その獣人は他の獣人の人たちよりもさらに背が高く、銀色の髪から覗き見える銀色の尖った耳、やはり下半身に生えている銀色のふさふさの尻尾……もふもふ……いやいや、なに余計なことを考えているのよ!
もふもふの尻尾……触りたい……。駄目だ……余計なところに目が行ってしまう……。
その獣人は飛行艇を確認していた獣人となにやら話し合ったりしているが、ディノが戻ってきたため、それ以上その人たちを眺めていることはなかった。
「どうやら王都へ空輸した帰りだったようでな。荷はなにもなかったらしい。なんとかエルシュに着いて良かったよ」
「そうなのね……あの獣人の人たちはなにをやっているの?」
「ん? あぁ、飛行艇の故障部分を確認しているようだ。元々飛行艇はガルヴィオから贈られたものだからな。おそらく修理もガルヴィオの船員がするんじゃないか?」
なるほど、それでガルヴィオの船員を応援に呼んだのかしら。
「あ、それよりリラーナとイーザンのところへ戻らないとな!」
「あ、そうだった!」
しまった、別れてからかなりの時間が過ぎている! きっと心配しているんじゃ!
ディノと顔を見合わせ慌てて魔導具屋へ戻るのだった。そのとき今まで鞄のなかにいたルギニアスがなぜかひょこっと顔を出し、飛行艇を見詰めていた……いや、獣人の人たちを見詰めている? どうしたんだろう……。
気になりはするが、ディノの後ろを慌てて追いかけるのだった。
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