第120話 魔物!?

 爆笑しつつ荷物を置いて一息ついたら、一階の食堂まで向かった。食堂にもたくさんの花が飾られ、テーブルの上にも小さな花が飾られていた。そんな可愛らしい食堂のなか、ディノは頭を抱えながら、イーザンは物凄く冷静な顔で座っていた。


「ブフッ。んん、あー、お待たせ」


 駄目だ、また笑ってしまいそう。これ以上笑ったら、きっとディノはしばらく口を利いてくれなくなるだろう。我慢よ! 横ではリラーナも我慢しているのか、物凄い顔になっていた……。


 私とリラーナが席に着くと同時に女将さんが料理を持って来てくれた。


「お嬢さんたち、部屋はどうだい? 可愛いだろ? うちは女性に凄く人気なのさ。女性好みに合わせてあげるなんて兄さん、良い男じゃないか」


 料理を置いた女将さんはそう言いながらディノの背中をバシッと叩いた。ディノはぐふっと前のめりにテーブルに突っ伏した。


 女将さんナイスフォロー! さすが年の功! 私たちがディノをからかってしまったのを見事に払拭してくれたわ!


「あ、ハハハ……そ、そうかな?」


 死んだ顔になっていたディノは少し浮上したようだ。私とリラーナは必死に「うんうん」と頷いて見せた。


「ルバードは花の街で有名だからねぇ。色んな花があるだろ? 街中どこでも花だらけさ。そのなかでもうちは人気なんだよ、お嬢さんたち良かったね」


 そう言いながら片目をパチリと瞑った。


「さ、それよりも冷めないうちに食べな。料理もうちの自慢だからね!」


 そう言われ、並べられた夕食を見ると、パンとスープとサラダ、それにテーブルの真ん中には大きな皿に乗せられたパイのようなものがあった。


「真ん中のミートパイがうちの名物だね! 焼き上がったばかりだから、熱々のうちに食べな」


 女将さんはそう言いながら大きな包丁でミートパイを切り分けてくれる。ザクリと音を立てながら切り分けていくと、パイ生地のなかからは零れ落ちそうなほどの具材が湯気と共に良い匂いを漂わせていた。


「美味しそう!!」

「いただきまーす!!」


 熱々のミートパイを頬張ると、少しピリ辛で濃いめの味付けに食欲をそそる。サクサクのパイ生地と具材の味が馴染み、とても美味しい。


「美味しいぃ!!」


 全員が満足げな顔。ディノの機嫌もすっかり直ったようだ。

 スープのなかにも大きく切った肉や野菜がゴロゴロと入っていて、ほくほくと美味しかった。焼き立ての香ばしいパンをスープに浸して食べると、さらに一層美味しい。

 テーブルの上にちょこんと座るルギニアスにも少しずつ小分けして差し出すと、満足そうに食べているのがちょっと可笑しかった。


 お腹も満たされ大満足で落ち着いていると、再び女将さんがやって来る。


「どうだった? うちの料理は」


「めちゃくちゃ美味しかったです!」


「ハハ、そりゃ良かった」


「だから言っただろ? 料理も美味い宿だからって」


 復活したディノがドヤ顔で言う。その姿に私とリラーナは苦笑した。女将さんもアッハッハと豪快に笑っている。


「そういやさ、あんたたち剣を下げているということは、護衛の仕事とかしてるのかい?」


 女将さんはディノとイーザンの剣を見ながら聞いた。


「あぁ、そんな感じかな。今は専属だけど」


 そう言って私を見たディノ。専属って……なんか語弊があるような……。


「護衛なんかやっているなら、結構腕が立つんだよね? ちょっと頼まれてくれないかい?」


 女将さんは先程までのにこやかな顔から、少し暗い表情となった。私たちは顔を見合わせ、女将さんを見た。一体なんの話?


「なにかあったのか?」


 ディノが怪訝そうな顔で女将さんに話を聞いた。


「いや、なんかね、最近魔物を見たとか言う話が出回っていてね……」


「「「「魔物!?」」」」


 大きな声では言えないが、と女将さんは小声で話し出した。


 女将さんの話によると、このルバード近くの森に魔物らしき怪しい姿を見かける、と森で狩りなどを行う者たちの噂になっているらしい。


「魔物かどうかははっきりしないらしいんだけどね、どうも魔獣でも魔蟲でもないらしいんだよ。人の子供の姿をしていた……とか噂があって……」

「人の子供……?」


 全員が無言となった。私はチラリとルギニアスを見た。ルギニアスは眉間に皺を寄せ、なにやら考え込んでいるようだ。


「そ、それって子供が迷子になっているとかじゃなく?」


 リラーナが疑問を口にした。そうよね。まずはそこを疑うわ。


「いやぁ、まあね、私らもそれを疑ったよ。でも、そんなところに子供が一人でいることなんてないだろう。最初に目撃したやつは実際子供だと思って声を掛けたらしいんだ。でもその子供はその声を掛けたやつを襲って逃げたらしい……」

「「「「…………」」」」


 私たちは顔を見合わせた。


「その魔物らしきものが街を襲ったとかはないんだけれどね、やっぱりそんな存在が近くにいるとなると不安になるだろ? 今はまだ街の人間しか知らないが、エルシュへ行く旅人たちにも被害が出ないとも限らない。だから本当に魔物なのか確認したいという話をしているところなんだよ」


「それ、領主に相談や、国の騎士団に調査依頼の要請とかしなかったのか?」


 ディノが考えながら口にした。そうよね、まずは領主や国に相談するのが一番なのかしら。

 女将さんはそれも言われることを予想していたのか溜め息を吐いた。


「はっきりしないことは領主様には相談出来ないって判断になったらしくてね……うちの領主様は……その、色々ね……」


 女将さんの苦笑いにディノとイーザンが「あぁ」と眉間に皺を寄せた。


「ルバードの領主様って誰だっけ?」


 リラーナが思い出すように聞いた。


「ランガスタ公爵だよ」



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