第119話 花の街ルバード

「着いたー!」

「ケツいてー」


 ディノと二人で身体を伸ばしていたら、リラーナとイーザンはいまだに魔導具について話をしていた。


「二人とも夢中になるはいいけど、とりあえず宿に行くぞー」


 ディノが荷物を抱え、二人に向かって手をひらひらと振った。

 辺りはもう陽が沈みかけ暗くなってきている。


 王都と比べとても小さい街『ルバード』。私が住んでいたローグ伯爵領のロダスタや、砂漠の街ランバナスよりも小さい街。建物は二階建てもあるが、数はそれほど多くはない。石造りの建物に、石畳の通路。しかし花がたくさん飾られ、街の中心地には噴水がある。花の街としても知られているらしい。とても可愛らしい雰囲気の街だ。


 徐々に街灯が点灯し出し、夕食時の美味しそうな匂いが漂い出す。


「腹減ったー。早く宿に荷物を置いて飯に行くぞー」


 リラーナとイーザンは話しながら、たまに喧嘩しながら? 私とディノが歩く後ろを付いて歩いていた。


「ディノはこの街に来たことがあるの?」


「ん? あぁ。エルシュへ行くときには必ず通るしな。小さい街だが、そうやってエルシュまでの行程で必ず皆が寄るから、それなりに栄えてると思うぞ」


「へー、そうなんだ」


 確かに周りを見回すと、小さい街にしては人がそれなりにたくさんいる。店もそこそこ多そうだ。


「皆が必ず一泊するから、宿もそれなりに何軒かあったかと思う。後は保存食を売っている店も多かったかな」


 ディノが思い出しながら話している。


 そしてディノが歩いて行くままに付いて行くと、一軒の宿へと到着した。


「いつもここに泊まるんだが、ここで良いか?」


 それほど大きくもない建物は玄関先にたくさんの花が飾られ、とても可愛かった。なんだかそんな可愛らしい宿になるとは思っていなかったため、ちょっと固まってしまった。


「え、駄目か!?」


 その様子に気付いたディノが焦った顔でおろおろし出し、笑いそうになってしまった。


「プッ。う、ううん、大丈夫……フフ、なんか思っていた以上に可愛い宿だったからびっくりしただけ……フフ」


 そう言うとディノは一気に顔が真っ赤になった。


「あ! いや! これは、別に! こ、この宿は食事も出してくれるんだよ!! 美味いし!」


 あわあわと焦るディノが面白くて、笑いが堪え切れなくなってしまった。


「フフフ……だ、大丈夫よ。可愛い宿で私は嬉しい……フフフ」


「わ、笑うな!!」


「アハハ」


 若干涙目になっているディノ。そこへ追い打ちをかけたのが……


「わぁ! めちゃくちゃ可愛い宿ね! ディノがこんな可愛いもの好きだとは意外!」


 背後からリラーナが盛大に声を張り上げ言ったものだから、ディノの顔は真っ赤から真っ青になりそうな勢いで泣きそうに……いや、少し泣いていた……ア、ハハ……。


 イーザンは憐れむような目を向け、ディノの肩にポンと手を置いた……。




 散々ディノをからかった後、宿へと入るとなかもとても可愛かった。至る所に花や小物が飾られ、花の香なのか甘い良い香りが漂っていた。女性陣二人できゃっきゃと喜んでいたが、ディノは目が死んでいた……。


「いらっしゃい、何人だい?」


 エントランスの横にある扉から出て来た女性がそう聞いて来た。ふくよかな優しそうな女性だ。


「あー、女将、四人だ。二人部屋を二部屋頼む。それと夕食も」


 若干げっそりとしたディノが女将と呼んだその女性に話した。


「二部屋と夕食ね」


 そう言って奥の部屋へと戻った女将さんは、再び戻ってくると、二つの鍵を渡した。


「二階の一番奥二部屋だよ。風呂場と洗面は共同だからね、入り口に札を掛けとくれ。夕食は今から一時間後で良いかい?」


「あぁ、それで頼む」


 ディノは鍵を受け取り、一つを私に渡した。二階へと上がると、廊下を挟んで左右に部屋が並んでいた。扉には番号の札が付いていて、鍵にある番号と照らし合わせる。


「風呂と洗面はこの廊下の反対側、一番奥にある。食堂は一階のエントランス奥だな。じゃあ一時間後に食堂でな」


 ディノがそう説明してくれ、私とリラーナは部屋へと入った。


 入ったその部屋はこれまた可愛らしい部屋だった。


「なんなの、この可愛さ!! ディノが選んだ宿ってのがまた笑えるわね!」


 リラーナが爆笑していた。


 部屋には小さな机と椅子は一つしかないが、ベッドはもちろん二つ。一人部屋に比べるとやはり広い。出窓には花が飾られ、ベッドのシーツや布団にも花柄があしらわれている。


「これってきっとあっちの部屋も一緒よね?」


 そう言いながらブフッと噴き出すリラーナ。


「だよね……この可愛いベッドでディノとイーザンが寝るのよね」


 リラーナと顔を見合わせる。


「「ブフッ」」


 笑いを堪え切れずに笑っていたら、ルギニアスが鞄からひょっこりと出て来て一言呟いた。


「お前らな……あいつに同情する……」


 そう言いながら溜め息を吐いていた。


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