第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編

第118話 リラーナとイーザン

「さて、とりあえずはエルシュだな?」

「そうだね」


 私たちは王都からエルシュ方面へ向かう乗合馬車に乗っていた。


 エルシュへの行程は三日程かかる。王都から最初に向かうのは『ルバード』と呼ばれる小さな街。そこで一泊し、そこから馬車を乗り換えさらに進む。エルシュまでの行程はそのルバードからさらに山越えをする。山中に山小屋があり、そこで一泊し、山を越える。その先にあるのがエルシュだ。計三日間の行程。


 アランが王都へ出て来るのに大変だったと言っていた理由が分かる。



「試験のときに一緒だったエルシュ出身の男の子に聞いたんだけど、アシェルーダからはガルヴィオ行きの船は出ていないそうなのよね……だからどうやって行ったら良いのかはまだ分からないんだけど……」

「ガルヴィオからの船は来るが、アシェルーダからはガルヴィオには行けない……」


 ディノが呟いた言葉に皆が考え込む。イーザンは顎に手をやりながらディノの言葉に続いた。


「しかしガルヴィオの船はガルヴィオに戻る」


「? 当たり前だろ、それがどうした」


 ディノが何言ってんだ、という顔をしている。ガルヴィオの船はガルヴィオに戻る……。


「そっか、ガルヴィオの船は戻るのよね!」

「あぁ」

「?」


 ディノはなにを言っているのかいまだに分からない様子。


「ガルヴィオの船に乗せてもらう訳ね」


 リラーナがニッと笑った。


「あぁ、そういうことか! なるほどな、アシェルーダからガルヴィオ行きが出ていないならガルヴィオの船に乗るしかないってことか!」


 イーザンが頷いた。


「でも……」

「あぁ、乗せてもらえるとは限らない」


 皆が無言になった。ガルヴィオの船員に知り合いなどいない。頼れる相手がいないのだ。乗れる可能性はゼロに等しい。


「ま、まあ、とりあえず着いてから考えようぜ。そういや自己紹介がまだだったな」


 そう言ってディノはリラーナに名を告げ、今までの経歴を話していた。イーザンも同様に自己紹介をしてくれ、そしてリラーナも自己紹介がてら魔導具を見せた。


「最近ルーサと一緒に開発していたのは護身用の武器もどきかしら」


「「武器もどき?」」


 リラーナと二人で顔を見合わせフフッと笑った。リラーナはナイフを取り出しディノとイーザンの前に差し出す。


「ナイフ?」


「ナイフなんだけど少し改良してあってね」


 そう言ってリラーナはナイフの柄の部分を解体して見せた。刃の付け根部分に魔石を埋め込み、魔石の力が刃の全体に覆い発動するように加工されている。イーザンの持っている魔導剣と似たような仕組みだ。しかし魔力の強いイーザンが扱うような魔導剣とは全く違う。


 誰でも扱うことの出来る魔導ナイフ。生活魔法を付与させた魔石を埋め込むことで、力は弱いが魔導師でなくとも誰でも発動出来るのだ。


「試作品だけど、これは雷系の魔力が付与してある魔石を埋め込んであるの。微弱だけれど、雷を纏ったナイフが相手に当たれば、痺れさせることが出来る!」


「へぇぇえ!!」


 リラーナが自慢げに話し、ディノは大いに感心していた。しかしイーザンは少し考えた後、口を開く。


「それでは接近戦にしか使えない。戦闘能力のない者が護身用に持つためのものなら、もう少し長さのあるもののほうが良いんじゃないか?」


 あ……、そのイーザンの言葉がリラーナに火を点けてしまった。明らかに『カチン』ときた顔をしたリラーナが声を張り上げた。


「長さがあると持ち歩くときに不便でしょうが! 重さもあるし、短剣や片手剣とかになると扱うにも訓練が必要になるし、そもそも生活魔法の魔力付与じゃ、剣全体に魔力のほうが追い付かないのよ! そうなると攻撃系の魔力付与が出来るものは魔獣とかの魔石になるし高価になるでしょうが! それに魔導師が扱うような魔導剣は、もうすでにいっぱいあるでしょ!! 私が作りたいのは今まで誰も作ったことがなくて、誰でも扱える身近な魔導具よ!!」


 ぜーぜーとまくし立てたリラーナを宥める。そうなのよね、リラーナが目指しているのは『誰でも扱える身近な魔導具』。特別な人しか扱えない特別な魔導具ではない。それをリラーナは誇りに思っている。


「そうか、余計なことを言った。すまない」


 イーザンが素直に謝った。ディノはハラハラしながら見守っていたが、イーザンが意外とすんなり謝ったことでディノはホッとしたようだ。


「い、いや、私もムキになってごめんなさい」


 リラーナも謝り、無事仲直り……と思ったら、またイーザンが……


「しかし、本当にもったいないと思う。もう少し改良したらどうだ」


 リラーナの叫びが再び始まる……。



 なんだかんだとリラーナとイーザンは最初喧嘩腰だったのに、しばらくするとイーザンの提案を「なるほど」とか言いながら聞いている。なんだかんだと喧嘩しつつ話が弾んでいるようで笑ってしまった。


「ハハ、なんだかんだ、あいつら気が合うみたいだな」

「そうみたいね、フフ」


 ディノと二人で笑いながら、エルシュへ向かう道中一日目の夜、小さな街『ルバード』に到着した。


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