第113話 ルギニアスと聖女
唐突に飛び出した爆弾発言。ガバッとルギニアスを見上げた。
「は? え? なに? 聖女? え? どういうこと?」
聖女? 聖女ってルギニアスを封印した聖女? あぁ、いや、今も聖女はいるんだっけ?確か代々聖女が結界を護り続けているとか。
「お母さんが? サクラの?」
それならルギニアスが封印されていた魔石を持っていたのも理解出来る……、いや、でもこの世界の聖女ならなぜあちらの世界に?
「違う……いや、まあ違わないが、今言っているのはそっちじゃない」
「そっちってどっち」
「ルーサ、お前の母親だ」
ん? 私の母親? サクラじゃなく今のこの私の母親……?
「え!? お母様!? お母様が聖女!?」
どういうこと!?
「お前の母親は僅かだがあいつと同じ気配がした」
「あいつ?」
「初代の聖女だ。俺を封印した……そしてサクラの母親でもある……」
「えぇ!?」
お母様が聖女という言葉に驚いたのに、さらに初代聖女!? しかもそれがサクラのお母さん!? いや、でも魔王であるルギニアスが封印された魔石を持っていたなら初代聖女で間違いない? え? いや……え!?
「ちょ、ちょっと待って! 情報量が多過ぎて頭がついていかない……」
頭を抱え必死に思考を整理する。そんな姿になのか、過去の記憶になのか、ルギニアスは苦笑した。
「俺はあいつの転生に巻き込まれたんだ……」
そう言ってルギニアスは順を追って話し始めた。
「サクラの母アリサ、この世界ではアリシャ。初代の聖女、始まりの聖女だった」
アリシャとアリサ……始まりの聖女……。
「アリシャは自分のことをアシェリアンの片割れだと言っていた。だから俺のこともアシェリアンの記憶から知っている、と。まああいつとは色々あったが……あいつは俺と戦い、そしてその紫の魔石に封印した」
そう言いながら私の胸元を指差し、懐かしさのような辛さのような悔しさのような……、様々な想いがあるのだろうか、複雑そうな表情のルギニアス。ルギニアスのそんな表情は初めて見たかもしれない……。
「俺が封印された後、アリシャは何年か生きてはいたが、役目を終えたからなのか、力を使い過ぎたのか、あいつは早々に寿命を迎えた。あいつが死んだとき、秘密裏にその石と共に火葬され、あいつと共に魔石も俺も消え去るはずだった……」
過去を思い出しているのか、遠い眼をしている。私に目線を向けてはいるが……私を見ているのではない。アリシャを思い出しているの? ルギニアスの表情からは憎しみは見えない……敵同士だったとは思えない……まるで友を思い出すかのような表情に思えた。
「しかしなんの因果か、あいつは石と共に異世界に転生してしまった。俺までも連れて……」
ルギニアスは苦笑した。
「そしてサクラの母親、アリサとして生まれ、お前を産み、死んだ。その石はアリサが死んだときにお前に引き継がれたが、お前もアシェリアンに引き摺られ死んだ。その石を持って、こちらの世界に帰ってきた」
え、ちょっと待って……サクラが死んだのはアシェリアンのせいなの!?
「アシェリアンは俺をこちらの世界に戻し完全に消滅させたかったのかもな。それにお前……サクラは巻き込まれたんだ……」
「…………」
そうなのかしら……慈愛の女神のアシェリアンが? ルギニアスを消滅させるために私を死なせ、こちらの世界に呼び寄せた? なんというか違和感がある……。なにか理由があるような気がする……。
「お前の今の母親も僅かだがアリシャと同じ気配がした。おそらくお前の母親は今世の、今のこの世界での聖女なんだろう」
「お母様が聖女……」
聖女だから私には教えてくれなかった? 私が聖女の神託を受けられなかったから置いて行かれた? お父様は? お父様は知っていたのかしら……。
「今のお母様はどこにいるの?」
「知らん。だが、ダラスの話でお前の両親の行動がなんとなく理解出来た。おおよそ、結界の守護でもさせられているんじゃないのか?」
「結界? 結界の守護……」
そうか……最近結界が弱まっているという話……そのせいでお母様が守護に出向いている?
「結界ってどこにあるの?」
「知らん」
「知らんって魔王ならそこから来たんじゃないの?」
「どこかの空に大穴が空いていたとしか知らんな」
本当になにも知らないの? 魔王なのに? しれっとした顔のルギニアスにイラッとする。頼りになるんだかならないんだか。
「結界か……結界……アシェリアン……アシェリアンといえば神殿……?」
神託を受けた、あのアシェリアンの神殿に行けばなにか分かる?
「神殿に面会をお願いしてみようかしら……」
ルギニアスはやはりアシェリアンのことは嫌いなのか、嫌そうな顔をする。アリシャのことを話すときはそんな顔じゃなかったくせに。
私の知らない過去のルギニアス。アリシャとの間にどんなことがあったのか、それは分かるはずもない。しかし憎んでいるようには見えない。それはきっとサクラのお母さんのときも……。自分の知らない二人の長い長い時を越えての関係。なんだかそれが深い絆のように感じた。
「なんで今まで教えてくれなかったの?」
なんとなくモヤモヤしてしまい、責めるような言い方になってしまった。
「俺の封印が解ける前に話をして、今の話を信じたか? そもそも魔王だということも信じてなかったくせに」
「…………ハハ、そうだね」
確かにちんちくりんルギニアスに今の話をされても信じられなかったかもしれない。
こうやって聖女の話を教えてくれたことは嬉しいはずなのに……それなのになんだかモヤモヤとするのはなんでだろう……。
「…………明日、神殿へ面会をお願いしに行くから! もう寝る!」
モヤモヤの原因なんて分からない! 分からないことをいつまでもモヤモヤしているのは嫌! 寝て忘れるのが一番よ!
「話てくれてありがと!!」
なんだか怒ったような口調になってしまったが、今はこれ以上取り繕えない!
「あ、あぁ……」
面食らったかのような顔になったルギニアスにちょっと笑いそうになり、少し気が晴れた、と言ったらきっと怒るんだろうなぁ、とか思いつつ、ふて寝しました。
ベッドに横たわった背後では「な、なんだよ」と呟いた声が聞こえた……。
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