第114話 神殿へ面会要請
翌朝、いつも通りの朝を迎えた。ルギニアスはどうやら私が眠った後に小さくなり、ベッドの端で眠っていたようだ。
ダラスさんとリラーナには聖女の話は出来なかった。ルギニアスが魔王ということも話さないといけなくなるしね……。そこは伏せたまま、今日は済ませてしまいたい用事があるから、と外出する旨を伝えた。
リラーナはいつでも出発出来るわよ! と、ニッと笑って見送ってくれた。
ディノとイーザンに連絡を入れてもらうために仲介屋へと向かった。
「よう、ルーサじゃねーか」
「こんにちは、モルドさん。ディノとイーザンに伝言をお願いしたくて……」
「あぁ、聞いてるぞ。ルーサが国家魔石精製師に合格したらあいつらと旅に出るんだってな」
「えぇ」
「で、試験はどうだったんだ?」
そう聞いたモルドさんに向かい、ニッと笑って見せた。
「合格しました!」
「おぉ! ついにルーサも国家魔石精製師か! おめでとう!」
「ありがとうございます!」
「そうか……ついに合格したんだな……で、旅に出るのか……寂しくなるなぁ……」
屈強な身体付きのモルドさんがなんだか小さく見えたのは気のせいだろうか……。眉を下げ、泣き笑いのようなそんな顔。
「いや、めでたいんだが、それは分かっているんだが……なぁ?」
なぁ? って言われても、と少し可笑しくなってしまい、フフッと笑った。
「だってよぉ、こんなちっこい頃から知ってるんだしなぁ。それがこんな大きくなっちまって……そんでもう独り立ちでこの街からいなくなっちまうなんてなぁ……そら、寂しくもなるってもんだろうが」
ぐすっと鼻を鳴らすモルドさん。こんなに寂しがってもらえるなんて。ここに来るまでも、今までお世話になった人たちに試験に合格したことを報告しに行った。皆が嬉しそうに、そして少し寂しそうにしながら喜んでくれた。
私はこの街の人たちにこんなにも愛されていたんだと嬉しくなった。もう独り立ち、でも私は独りじゃない。これだけ愛してくれる人たちがいる。大好きな人たちがたくさんいる。それが嬉しく誇らしかった。
お父様、お母様、見てよ。私はこんなに大事な人たちがたくさん出来たのよ。
モルドさんは私の頭を何度も撫でてくれ、いつでもまた来いよ、と言ってくれた。そしてディノとイーザンがいなくなることも寂しがっていたが、私たちの成長を喜び、心から応援してくれたのだった。
ディノとイーザンに伝言をお願いした後は、その足で大聖堂へと向かった。門兵に名前と要件を伝え通してもらう。
大聖堂では月に一度礼拝が行われている。そのため洗礼式や神託のときでなくとも大聖堂は普段から信徒を受け入れている。しかし女神アシェリアンの神殿は別だ。
女神アシェリアンの神殿へは洗礼式と神託のときにしか出向くことは出来ない。神殿へは司教であってもかなり上の立場の者しか行き来出来ないと聞いた。だから神殿で神託のときにいた司教に面会を申し入れても受け入れてもらえるかは分からない。
しかし分からないからといって何もしないよりは、一度大聖堂でお願いしてみる価値はあるのでは、とやって来た訳だ。
ルギニアスはやはりというかなんというか、物凄い居心地悪そうな顔をし、自分から鞄のなかへと引っ込んだ。
「よし」
大聖堂の厳かな雰囲気に一瞬足が止まるが、重い扉を開きなかへと進んだ。
礼拝堂を真っ直ぐ進むと聖女の像の前に一人の司祭が立っていた。なんだか見覚えが……洗礼式のときに案内してくれたおじいさんのようだ。
「ようこそおいでくださいました。今日はどのようなご用件で?」
優しく微笑んだおじいさんはゆっくりと聞いた。
「ルーサと申します。礼拝の日でもないのに申し訳ありません。今日はお願いがあって参りました」
「お願い?」
「はい……女神アシェリアンの神殿におられる司教様に面会をお願いしたく……」
「面会……」
その言葉に少し怪訝そうな顔をしたおじいさん。
「普通、神殿の司教様には面会出来ないことは存じております。そこをなんとかお願い出来ないかと……」
「我々ではお聞きすることは出来ないことなのですね?」
「はい……すみません」
直接神殿で話したいと言っている時点でなにかを察してくれたのか、おじいさんは内容を聞くでもなく考え込んだ。
聖女の話、結界の話、それらの話をする時点で魔王であるルギニアスの存在もバレてしまうかもしれない。だから出来るだけ今ここでは話したくない……。
「ここで少々お待ちいただけますか」
「はい」
そう言っておじいさんは礼拝堂の奥、おそらく部屋があるのだろう、暗い廊下へと消えて行った。
待っている間、聖女の像を眺める。優しいお顔。この人が『アリシャ』。美しく優しそうな人。洗礼式のときに見たときも、なんだか懐かしいような温かさを感じた。それは私のお母さんだったからだろうか。アリシャの顔とアリサの顔はよく似ている。聖女の容姿は以前魔導研究所の書物に書かれていた。髪色や瞳の色は全く違うはず。それでも記憶に残るサクラのお母さんはこの聖女の像とよく似ている気がする。
気付けばルギニアスが鞄からひょっこりと顔を出し、聖女の像を見詰めていた。ルギニアスはアリシャの姿を見て何を想っているのだろうか……。
なんだかまたモヤモヤしそうな気がして、私はルギニアスから目を逸らした。
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