第101話 ルギニアスの葛藤

「保護者ね……」

「ま、なんかよく分からんが、ルギニアスが味方なら頼りになりそうだしいいんじゃないか?」


 イーザンは怪訝な顔のままだが、ディノの適当な感じのおかげで助かった。


「そういや、魔石は採取出来たのか?」


 ディノが思い出したかのように聞く。


「あ、うん! 最高の魔石が採取出来たよ!」


 鞄からドラゴンの魔石を取り出し、二人に見せる。先程までの怪訝な顔から一気に目を輝かせたイーザンは、食い入るように魔石を見詰めた。


「さすがドラゴンだな、今まで見たことがないほどの魔石だ」

「でしょ? 二人のおかげだよ、本当にありがとう」

「ま、俺たちは結局死にかけただけだがな」


 ディノはそう言って苦笑した。


「ううん、二人が闘う決意をしてくれなければ手に入れられなかったよ」


 二人が闘ってくれなければ、あのまま逃げようとして逃げきれなかったら……。

 手に入れられないどころか最悪死んでいたかもしれない。二人があれだけ闘ってくれたからこそ、きっとルギニアスも封印を解け、なんて言ったんだと思う。


 だって……もしただ封印が解きたいだけなら、もっと早くに言えば良かったんだし……。でも今までルギニアスからそんなことを言われたことはない。私の力が足らないということなら、足りたと思う時点で言っていただろうし。


 だからきっとルギニアスは二人を助けたかったのよ……そう信じたい。




「とにかくアシェリアンの泉に戻るか。ここにいたらまた魔獣が出る」


 ディノのその一言で私たちはアシェリアンの泉まで戻ることとなった。


「あの辺り一帯に魔獣たちがいなかったのはあのドラゴンのせいだったんだな」


 アシェリアンの泉まで戻る道中、やはり魔獣に出くわしたが、回復した二人は難なく討伐していった。ルギニアスは全く闘う気配なし。なんでよ。


「ルギニアスはなんで闘わないの?」


「俺が攻撃すると、この辺り一帯が吹っ飛ぶぞ」


「!?」


 二人が討伐してくれている間にルギニアスに聞くと、とんでもない答えが返って来た。


「い、いやいや、加減しなさいよ!!」


「めんどくさい」


 思わず手が出そうになった……。



 アシェリアンの泉まで戻ると二人とも一気に気が緩んだのか、ぐったりとへたり込んでいた。いくら回復薬で回復したとはいえ、ドラゴンとの戦闘で消耗した体力まで回復する訳ではない。疲労困憊といったところかしら。

 でも本当に無事で良かった……。


 すっかり陽が落ちそうな時間となっていたため、夕食の準備をする。その間、ルギニアスはどこへ行ったのかときょろきょろと周りを見回すと、泉を見詰めているのか水辺で立ち尽くしていた。なんだか声を掛けられず、私はそのまま夕食準備を進めた。



 準備も整い、皆に配る。


「ルギニアスも食べる……のよね?」


 今までちんちくりんのときは食事などしたことのないルギニアス。それは魔石に封印されていたからか。でも魔石のなかではどうなっているのかしらね。お腹は空かなかったのかしら。


 差し出した食事をルギニアスは一瞬躊躇ったが、なにも言わずに受け取った。


「今日は野菜スープにチーズを入れてあります!」


「おぉ、うまそうだな!」


 基本的にはパンとスープになるのだが、スープに入れるものを毎日変えている。野菜の種類を色々と変えたり、とろみを付けたり、カリカリのパンを入れてみたり。

 そして今日はたっぷりのチーズ! 乾燥チーズを多めに熱々スープへと投入すると、とろとろのチーズに早変わり!


「「「いただきます」」」


 ディノは勢い良く食べ始め、イーザンもほっとしたように表情が和らいだ。


 ルギニアスを見ると……手を付けずに固まっている?


「ルギニアス、どうしたの? 食べないの?」


「…………」


「?」


 皿のなかをじっと見詰めていたルギニアスは、なにも言葉にすることなく、ゆっくりと食べ始めた。



 どうしたのかしら……。でも……ルギニアスが食べている姿を見るのは初めてね……。なんだか不思議な感じ。


「へー、ルギニアスって食事も出来るんだな! 本当に凄い魔傀儡だな!」


 ディノがおもむろに口にした言葉に思わず咽る。


「ぐふっ! げほっげほっ……あー、そうだね。私もよく知らないけどルギニアスは特別だから」


 目を輝かせているディノの視線が突き刺さる……うぅ、な、なんか色々と無理がある……。

 私のそんな気苦労も全く気にも留めず、ルギニアスは黙って食べていた。






 ルーサが見張りをするなか、ルギニアスは一人離れ、泉の傍に佇む。すっかり夜となり、泉には月が浮かんでいた。静寂のなか、風の音とそれに揺れる水の音だけが耳に届く。


 泉の中心にはあの魔石がある。アシェリアンの気配を感じる魔石。不愉快な気配。


 しかし、ようやく戻った。


 ルギニアスは自身の両手を見詰めた。そして背後を振り向くと、ルーサがこちらに気付き笑顔で手を振った。



「俺は、どうしたい……」



 小さく呟いた言葉は誰の耳にも届かなかった。


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