第100話 お母さんと紫の魔石

「ルギニアスのあの妙な気配と同じ気配を感じる」


「おい、妙な気配とはなんだ」


 イーザンの言葉に失礼な奴だな、とムッとしたルギニアス。


 あぁぁあ、ど、どうしよう!? どう言うのが正解!? ルギニアスだとバレて大丈夫!? いや、でも魔王とバレるよりは余程良いか……、いやいや! でも魔傀儡がいきなり大きくなる!? 魔傀儡自体どんなものか見たことないんだけどさ。皆知らないんだから大きくなることも出来る魔傀儡だって言っちゃう!?


 ジィィ、とこちらを見詰める二人。ルギニアスは「どうするんだ、お前」といったジトッとした目。


 あぁぁぁあ!! ええい!! ままよ!!


「そ、そうなの……この人、ルギニアスなの……」


 しどろもどろになりながら口にした。チラリと二人を見ると、イーザンは表情は変わらずだが、ディノは目を見開いていた。


「まじか!! スゲーな!! 魔傀儡ってこんなデカくもなれるのか!!」


「え、あ、あー、うん……」


 イーザンは呆れた顔でディノを見ていたが、特に肯定も否定もしなかった。ルギニアスはまたしても魔傀儡扱いされたことが不満だったのか、私を睨んだ。いや、睨まれても……仕方ないじゃない……。


「それにしても本当に人間そっくりだな!」


 ディノが近付きルギニアスを見上げる。ディノも背は高いほうだと思うが、それよりもさらに背の高いルギニアス。じろじろと上から下から眺められ、不機嫌な顔のルギニアスはおもむろにディノの頭に手刀を振り下ろした。ビシッと音でもしそうなくらいの勢いで頭を叩かれたディノはしゃがみ込み頭を抱えた。


「痛ってー!! なにしやがる!!」


 若干涙目になりながら顔を上げたディノはルギニアスを睨む。


「お前が人のことをじろじろと見るからだ。失礼な奴だな」


「人って……」


「あ、あー!! 魔傀儡って言ってもほぼ人と同じように感情があるから!!」


 ディノとルギニアスの間に割り込み、慌てて取り繕う。イーザンはやれやれと言った顔。き、きっとイーザンは魔王とは思わないにしても、魔傀儡ではない、とはバレているわよね……。


「まあ魔傀儡とかはどうでもいい。ドラゴンはどうした?」


「あぁ、そういえば」


 イーザンが溜め息を吐きながら言った。ディノも思い出したかのように頷く。


「えっと……ルギニアスが……」


 これまたどう言ったらいいのやら……。あぁ、胃が痛い……。


「俺が倒しておいてやった、感謝しろ」


 ドヤ顔で腕を組むルギニアス。ディノだけでなく、さすがのイーザンも少し驚いた顔をした。


「倒した!? あのドラゴンを!? ルギニアス一人でか!?」


「あぁ。俺が助けなければお前たちは死んでいたぞ」


「あ、あぁ、そうだな、助かった」


 ディノは素直に感謝を口にしたが、イーザンは怪訝な顔。


「あんた何者だ?」


 ちょ、ちょっと!! またそこに戻るの!? 魔傀儡で落ち着いたじゃないの!! そう叫びそうになったがグッと堪え、どうしたものかとあわあわしていると、ルギニアスが鼻で笑った。


「何者かと聞かれてもな」


 チラリとこちらを見たルギニアスに釣られて二人も私を見る。あぁぁ、また!!


「異様な魔力を感じるな」

「そうなのか?」


 イーザンは再びルギニアスを見て言った。ディノは気付いていないのかしら。魔力感知を出来ない人でもルギニアスの魔力は人に威圧感を与えそうだけど。


「ルーサの保護者みたいなものか」


「「「保護者!?」」」


 は? なに言ってんの!? 慌ててルギニアスの腕を引っ張り小声で問い詰める。


「ちょっと! 保護者ってなによ!」

「保護者みたいなもんだろうが。俺は前世からお前を知っている」

「前世……」


 そうか、紫の魔石は前世のお母さんの形見。そのなかに封印されていたルギニアス。ということは、前世のときからルギニアスはずっと紫の魔石のなかにいたということ。

 ルギニアスの声を最初聞いたとき、なんだか懐かしい気がした。それは……


「前世でもお母さんと喋ってた?」


「ん? あー、そんなこともあったかもな」


「そうなんだ……」


 だから聞いたことがある気がしたんだ。懐かしい気がしたんだ。私はルギニアスの声を知っていた……。


「そ、そうだね。私のお母さんのものだから保護者みたいなものかな」


 嘘は言ってない。前世のお母さんが持っていた魔石のなかにいたルギニアス。だから保護者かどうかは置いておいたとしても、身内のような立場かもしれない。魔王だけど……。


 そういえばなんで前世のお母さんが魔王の封印された魔石を……。


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