第99話 ドラゴンの魔石

 ドラゴンの身体から溢れ出る血が川のように流れて来る。ゆらゆらと流れては来るが、さすがドラゴンというべきか、魔力が強すぎて負けてしまいそうだ。まるで巨漢な男性と綱引きでもしているような感覚。必死に繋ぎ止める。


 ズシィィィィイイイン!!


 ドラゴンの身体が地面へと叩きつけられた。それでもまだ集中力を切らす訳にはいかない。腕を掲げたままドラゴンの血を追う。綱引きの状態からじわじわとこちらになんとか引っ張って来ると、次第に掌へと集まって来た。


 大きく渦巻き、今まで見たことがないほどの巨大な渦。大きく、そして激しく渦巻くドラゴンの血を何とか結晶化させていく。


 あともう一息……。


 全ての魔力を注ぐつもりで結晶化を繋ぐ。


「うぐぐぐっ!!」


 ドラゴンの血が全て抜け切り、手元へと集まった。大きく渦巻く血は次第に圧縮されていく。もう私の魔力も限界を迎えてしまう! 最後の力を振り絞る。

 圧縮された血は赤色なのに、まるで虹色の輝くような不思議な色合いの赤となり、私の掌いっぱいの大きさの魔石となった。



「や、やった……」


 私はその場にへたりこんだ。地面に落ちたドラゴンの身体は結晶化が終わったと同時にさらさらと砂のように風に吹かれて消えた。


「おい、あいつらはいいのか?」


 ルギニアスがへたりこんだ私の前まで歩いて来ると言った。


「!! ディノ!! イーザン!!」


 魔石を鞄のなかに収め、急いで駆け寄る。私自身も先程の結晶化ですでに魔力は枯渇している。ふらふらとしながらも二人の元に駆け寄ると、地面に倒れた二人はボロボロだった。


 死んでいるのではないかと不安に襲われ、慌てて二人に声を掛ける。


「ディノ!! イーザン!! 大丈夫!? 目を開けて!!」


 その声に反応するように小さく呻き声を上げ、身体が少し動いた。良かった!! 生きてる!!

 鞄から持っていた回復薬を全て取り出し、ディノとイーザンに与えていく。小瓶に入った回復薬を飲ませようと口に近付けると、少しずつだが飲み込んでくれた。ひと瓶では足らず持っていた全てを二人に飲ませると、次第に傷口が塞がっていくのが見えた。


「ん……、ルーサ……?」


 ディノが目を覚まし、それに続くようにイーザンも目を開けた。


「よ、良かったぁ……」


 安心感からかどっと力が抜けてしまい、ぐったりと地面に座り込む。二人は呻きながらもなんとか身体を起こし、同様に座り込んだ。


「あぁぁあ、あちこち痛てー」


 ごきごきと身体をなんとか動かすディノ。イーザンも自身の身体を確認しつつ、周りを見回した。


「ドラゴンはどうした?」


「あ、そういやそうだな」


 周りを見回してもドラゴンの姿形もない。なんせ綺麗さっぱり消え去ってしまったんだから。


 説明しようとかと口を開きかけたとき、ディノとイーザンがまだまともに動ける状態ではないのに、勢い良く立ち上がり剣を探した。一瞬で攻撃体勢だ。


 それに驚いていると、二人の視線に気付いた。私の後ろを睨んでいる。


「お前は誰だ!?」


 ディノが叫んだと同時に、私は後ろを振り向いた。そこにいたのはルギニアス。


 しまった!! ルギニアスをどうするか考えてなかった!! ど、どうしよう!!


 慌てて立ち上がり、ルギニアスを背後に庇った。


「ま、待って!! この人は大丈夫だから!!」


「大丈夫って誰なんだ!?」


「そいつからは今まで感じたことがないような魔力を感じる。普通の人間とは思えない」


 イーザンの言葉にぎくりとした。そうか、イーザンは魔力感知が出来るのよね。あわわわ、どうしたら……。


 どうしたら良いのか分からないまま焦っていると、ルギニアスが私の肩を掴んだ。


「フッ、俺はま……むぐっ」


 ルギニアスがとんでもないことを口にしようとしている気配を察知し、慌ててルギニアスの口を両手で塞いだ。


「おい、離せ」

「なにを言おうとしたのよ!!」


 ルギニアスは私の両手を掴み、口から離した。そして小声でやいやい言い合う。


「まさか『魔王』なんて言うつもりじゃないでしょうね!!」

「当たり前だろうが、俺は魔王だ」

「そんなこと言っていいわけないでしょうが!!」

「隠したところでどうなのだ。いずれ分かることだ」

「そうだとしても今言わなくていいから!!」


 言い合っていると背後からは訳が分からないといった二人の気配を感じた。


「もしかしてルギニアスか?」


「え!?」


 イーザンが呟いた。あまりの驚きにガバッと二人に振り向くと、イーザンは怪訝な顔、ディノはそのイーザンの言葉に驚愕の表情を浮かべていた。


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