第98話 ルギニアスの力
ルギニアスはドラゴンを真っ直ぐ見据え仁王立ち。ドラゴンの足元にはディノとイーザンが倒れている。今にもとどめを刺そうとしているのか、大きく口を開いていた。
「ふむ」
ルギニアスが一歩踏み出すと、それに気付いたドラゴンがこちらを向いた。
『グルゥゥァァァァアアアア!!』
ルギニアスを見たドラゴンは怒りをぶつけるかのように咆哮を上げる。ビリビリと空気が揺れる。身体が強張る。しかしルギニアスはそれをなにも感じないかのように、フッと笑いながらさらに歩を進めた。
「ル、ルーちゃん……」
心配するなといった仕草で、ひらひらと片手を振ったルギニアスは、ドラゴンとの距離を詰めて行く。ドラゴンはルギニアスの魔力に警戒しているのか唸りながらも、真っ直ぐ見据えその場から動かない。ドラゴンの視線はディノとイーザからルギニアスへとすっかり移っていた。
ドラゴンの目の前まで進んだルギニアスは、自分よりも遥かに大きい姿にすら怯える様子はなく、ただドラゴンの顔を見上げていた。
「ふむ、お前、俺の手下にならないか?」
「は!?」
ルギニアスが発した言葉に耳を疑った。は? 手下? なに言ってんの?
「ル、ルギニアス!! どういうつもり!?」
離れた背後から大きく叫ぶ。少し振り向いたルギニアスは鼻で笑った。
「黙ってろ」
「!!」
な、なんなのよ!! 手下ってやっぱり魔王としてなにかしようとしているの!? 信じた私が馬鹿だったの!?
思わずルギニアスの元へ駆け出しそうになったとき、ドラゴンが再び咆哮を上げた。
『グォォォォオオオ!!』
「無駄か。そもそも意思疎通が出来てないな……」
ルギニアスはぼそりと呟き、溜め息を吐いた。ドラゴンは大きく口を開け、魔力が集まる。
「ルギニアス!! 炎が来る!!」
魔力操作で炎を抑えようとしたが、ルギニアスは余計なことをするなとばかりに、手をひらひらとさせた。
ドラゴンは大きく開いた口から業火を噴き出す。
ゴォォォォオオオオ!!
「ルギニアス!!」
ルギニアスが炎に包まれる! そう思った私が馬鹿なのか、ルギニアスはニヤッと笑うと左手を掲げ、光の壁のようなものを目の前に張った。
それは障壁結界なのだろうことはすぐに分かったが……、これほどのものを一瞬で張ることが出来るのだろうか、と唖然とするほど、巨大な障壁結界だった。
光の壁はドラゴンの業火に少しも揺らぐことも壊れることもなく、光り輝いていた。ドラゴンの身体よりもさらに大きい光の壁。その壁はしかも炎を防ぐだけではない。よく見ると吸収していっている!?
壁に当たった炎は普通なら壁以外の場所へと流れていくのだろうが、ルギニアスが出した壁は炎が流れていかない。そのまま壁に吸収されているように見える。
ドラゴンは吸収されていることに気付いているのかいないのか、ひたすら炎を噴き出していたが、それがいつまでも続く訳ではない。必ず限界が来る。
一度の魔力溜めで放出出来る炎の限界が来たのか、ドラゴンの炎が止まった。
「そこそこな威力だったが……まあここまでか」
ルギニアスは光の壁を消失させると、掲げていた左手を下げた。ドラゴンは翼を大きく羽ばたかせ暴風を巻き起こす。ルギニアスの長い髪が大きく揺らいだ。
ドラゴンは空高く舞い上がり、ルギニアス目掛けて急降下してくる。ルギニアスはドラゴンを見上げていたかと思うと右手を上げた。そしてドラゴンに向けて吹雪を放った。ルギニアスの手から放たれた吹雪はその先を真っ白に染め上げた。太陽の光を反射しキラキラと光る。辺り一帯の気温が下がったような気さえする。
吹雪に囲まれたドラゴンは視界を奪われたのか、急降下していた動きを止めた。そして動きを止めたドラゴンの身体はみるみるうちに凍って行く。ドラゴンは暴れ回り、自身の身体に付いた氷を振り落とす。しかし凍らせていく力のほうが圧倒的に強い。ドラゴンの身体を這う氷は止まることがなかった。
ルギニアスは吹雪を止めたかと思うと、その手を横に勢い良く振り抜いた。
その瞬間……
「!?」
ドラゴンの身体は真っ二つに……。胴体の部分を綺麗に一直線に斬り裂かれていた。
「おい、いいのか?」
ルギニアスは私に振り返り言った。
「え……」
「魔石」
「!!」
茫然と眺めていたが、ルギニアスの言葉にハッとする。そして上空で真っ二つとなったドラゴンが血を流しながら落下してくるところを狙い両手を掲げた。
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