第95話 森の最奥地
「俺たちはフェスラーデの森はこの辺りで退散するよ」
ライたちは結局同じアシェリアンの泉で夜を明かし、朝になってそう告げた。
「リースの脚の怪我は治ったが、次も似たような状況になった場合、俺たちだけじゃ対処出来ないかもしれないしな。それよりも確実性の高い砂漠へ行くよ」
「そっか」
荷物を片付けながらそう言ったライ、そしてリースも晴れやかな顔だった。
「ルーサも気を付けてね」
「うん」
そうやって挨拶を交わし、ライとリースは森を去って行った。
「俺たちはまた先に進むか」
ライたちと別れたあと、再び森の奥地を目指す。ライたちの前では姿を消していたルギニアスが再び現れ、私の肩の上に乗った。
今まで通ったことのある道を最短で進んで行く。途中で見かけた魔獣も今手に入れている魔石よりも強いものではなさそうならば、見付からないようにやり過ごし進んで行く。
そうやって効率良く進んで行くと、ついに山の麓までたどり着いた。
たどり着いた麓は木々が少なく、岩肌が剝き出しになった切り立った崖が目の前に立ち塞がった。見上げると遥か上のほうには再び木々が広がっているようだった。
「これ、やっぱりここで行き止まりってことかしら」
「うーん、そうだなぁ。ちょっと周りを散策してみるか?」
「そうだね」
岩肌に沿って歩いてみるがどこもずっと崖が続いているだけだった。魔獣や魔蟲の姿もない。
「ねえ、魔獣と魔蟲もいないのはなんでだろう?」
「そういやそうだな」
辺り一帯が静まり返り、魔獣や魔蟲の気配もない。それが逆に不気味に感じる。今までこの場所にたどり着くまでに遭遇した魔獣たちの数に比べたら、明らかに異質だ。アシェリアンの泉とは違う違和感。
「なにか嫌な予感がするな……」
イーザンが眉間に皺を寄せながら言った。それに応えるようにルギニアスが叫んだ。
「来るぞ!!」
その瞬間、頭上から大きな影が落ちた。
「「「!?」」」
三人とも勢い良く一斉に空を見上げた。森の木々が切れ、崖がそびえ立つその場所。頭上の空は広く、青い空が広がっていた。しかしそれを視界から隠すように影を落としたのは……
「「「ドラゴン!?」」」
圧倒的な大きさの身体に黒々とした漆黒の鱗が艶やかに光り、大きく翼を羽ばたかせ、真紅の鋭い眼でこちらを睨み付けている。
「な、なんでこんなところにドラゴンが!?」
「そんなことはどうでもいい!! 距離を取れ!!」
ディノは驚きの声を上げ、イーザンは焦ったように退避を促した。私は初めて見る巨大なドラゴンに身体が強張り動けなかった。
「「ルーサ!!」」
ディノとイーザンが叫び、そしてルギニアスが私の髪を引っ張った。
「動け!!」
耳元で叫ばれたルギニアスの声にようやく身体が動いた私は、まだ強張るからだを無理矢理動かし走った。
「な、なんなのあれ、フェスラーデの森にドラゴンがいるなんて聞いたことない!!」
叫んだ言葉はディノたちにも届き同様に驚愕の顔でドラゴンを見る。
『グルゥゥァァァァアアアア!!』
ドラゴンが咆哮を上げる。ビリビリと空気が震えた。それと同時に森の木々が揺れ、鳥たちが一斉に飛び立った。魔獣たちがこの付近にいなかった理由はこのドラゴンのせいだったのね!
「く、くそっ、あんな奴、戦って勝てるか!?」
「厳しいな……しかしすでに標的になっている。逃げ切れるとも思えない」
ディノとイーザンからは焦りの表情。ど、どうしよう!! まさかこんな相手に遭遇するなんて……。
必死に森のなかへ身を隠そうと走る。大きく羽ばたいたドラゴンの翼からは激しい風が巻き起こり、私たちの身体を吹き飛ばす。
「「「!!」」」」
激しく地面に叩きつけられ転がった私たちは、しかしそれを気にしている場合でなく、すぐさま立ち上がり森を目指す。
ドラゴンはそれを分かっているのか、空高く舞い上がったかと思うと、大きく旋回し急降下。私たちの目の前の森の木々を薙ぎ倒していく。
目の前を巨体が横切り、先頭にいたディノはドラゴンの翼に弾かれた。
「ディノ!!」
ディノは瞬間的に剣を抜き、ドラゴンの翼が自身に当たるのを防いだ。しかし、当たった衝撃は免れなく、背後に吹き飛ばされる。
「ぐあっ!!」
なんとか受け身を取り体勢を整えたディノ。その姿にホッと息を吐く。
薙ぎ払われた木々を目の前で確認したイーザンは覚悟を決めた目で振り返る。
「ルーサは離れていろ、戦う」
「!!」
イーザンはドラゴンに向き直り、魔導剣を抜いた。ディノもそれを目にし、自身も覚悟を決めたようだった。同様に剣を構えた。
あぁ、どうしよう……私のせいだ……私のせいで二人の命が危険に……こんな奥地まで来なければ……私の判断ミスだ……どうしよう……二人が死んでしまったら……。
リースにあんな偉そうに言っておいて、私、今後悔してる……。覚悟を持ってここに来たつもりだった……でも……でも二人の命を懸けてまで魔石が欲しい訳じゃない……。
涙が込み上げそうになるのを必死で堪える。情けない。泣いている場合じゃないのに。
「目を逸らすな。逃げるな。あいつらはお前のせいだなんて思っていない。あいつらはまだ諦めていないのに、お前が否定するな」
ルギニアスが私の肩の上、二人を真っ直ぐ見据えたまま言った。
「ルーちゃん……ありがとう……」
そうよ……私が諦めてどうするのよ……目を逸らしちゃいけない。
強張る身体。ぐっと拳を握り締める。私は真っ直ぐ二人を見詰めた。
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