第94話 ライとリース

 ライとリースが護衛であろう三人と一緒に六匹のウルーに囲まれていた。ウルーは素早い動きで厄介ではあるが、護衛の人からしたら左程強い相手ではない。だけど、それは数が少ない場合だ。ウルーは群れで行動する。一対一ならばともかく、三人しかいない護衛と対数匹ともなると苦戦するのは間違いない。

 しかも、どうやらリースが怪我を負っている。ウルーと対峙したときに攻撃されたのだろうか、脚から血が流れている。処置をした様子もない。ということは、今のこの群れに襲われ怪我をしたのだ。


「結構な数だ……先手必勝だな」

「あぁ」


 そう言ってディノとイーザンは風上に移動していったかと思うと、ディノが大きく叫び煙玉を投げ込んだ。


「援護する!!」


 投げ込んだ煙玉から煙が噴き出し、そしてディノの言葉に一瞬驚いた顔をしたがライたちは瞬時に理解したのか、リースを庇いながらウルーの群れのなかを抜けた。護衛が剣で攻撃しつつ、魔導師が風の刃で斬り裂く。ウルーが怯んでいる横を駆け抜け、森の木陰にライとリースは身を隠す。


 護衛三人は再びウルーと対峙し、ディノとイーザン、ライたちの護衛三人の共闘が始まった。


 私はというと慌ててライとリースの元へと走った。


「ライ! リース!」

「「ルーサ!?」」


 リースに駆け寄り、怪我の具合を診る。服は斬り裂かれ、脚が深く抉られ血が流れている。鞄から慌てて回復薬を取り出し、直接傷にかける。


「うっ」


 リースは苦悶の表情を浮かべた。大きな傷には飲むよりもかけるほうが即効性が高い。しかし飲むよりは効果が薄れる。ライも慌てて自身の鞄から回復薬を取り出し、リースに飲ませた。


「まさかルーサに会えるなんて、ありがとう」


 リースは回復薬を飲み干し、脂汗を流しながらも落ち着いてきたのか顔を上げにこりと笑った。


「あぁ、驚いたよ。まあでもルーサもフェスラーデの森に行くって言ってたもんな。どこかで会うかな、とは少し思ってた」


 ライも少しは安堵したのか、強張っていた表情が少し和らいだ。


「うん、私も会えるかな、とは思ってたけど、本当に会えるとは思わなかったよ。間に合って良かった」


 そう言いながら私はディノとイーザンの様子を伺った。


 ウルーたちは突然現れたディノとイーザンに驚いたのか、煙玉のせいなのか少し動きが鈍くなっていた。それを二人が見逃す訳がなく、先手必勝という宣言通りにディノとイーザンは次々ウルーをなぎ倒していき、イーザンの放つ業火により、辺り一面大爆発を引き起こした。ライたちの護衛もその爆発から逃れたウルーを仕留め、残り一匹というところでその一匹は逃げ出した。


「ディノ、イーザン、ありがとう、お疲れ様!」


「おう!」


 ディノが高らかに拳を突き上げ、こちらに戻ってくる。それに続くイーザンとライたちの護衛三人。ライたちの護衛はにこやかにディノとイーザンに声をかけている。二人も顔見知りなのか、親し気に話していた。私たちは合流すると改めて、ライたちからお礼を言われた。


「本当にありがとう。俺たちだけじゃやられてた」


「ま、困ったときはお互い様だよな。それより一旦アシェリアンの泉に戻るぞ。さっき逃げた奴がまた仲間を連れて来るかもしれないしな」


 ディノの言葉に皆が頷き、私たちは共にアシェリアンの泉まで戻ることにした。



「リース大丈夫?」


 アシェリアンの泉に戻ってからは全員身体を休めるために、食事をしつつ休息となった。その間にリースの怪我の具合を聞く。傷はまだ完全には癒えてはいないが、もう血は流れていない。回復薬を飲んでいるため、もうしばらくしたら完全に癒えるだろう。


「うん、ありがとうね、ルーサ」

「良かった」

「あー、やっぱり私にはまだフェスラーデの森は厳しかったのかもね」


 そう言いながら眉を下げる。


「厳しい?」

「うん。ライと共闘するから大丈夫と思ってたけど、明らかに私が足を引っ張っちゃった」

「リースが?」

「逃げるのが遅れて怪我を負った挙句、あの通り囲まれちゃったしね」

「…………」


 なんて言葉をかけたらいいのか分からなかった。足手纏い、そうなのかもしれないけれど……


「それを言っちゃうと魔石採取なんて出来ないよ。私たちは自分で戦える訳じゃない。誰かに戦ってもらわないといけない。それはいつまで経ってもずっとそう。足を引っ張るかもしれない。誰かに怪我を負わせてしまうかもしれない。命の危険に晒すかもしれない……でもそれは魔石精製師として覚悟しないといけないことなんじゃないかな、と思う……」


「…………そうだね」


「あ、ごめん! 生意気なこと言って!」


 シュンとしてしまったリースに慌てて取り繕う。なに偉そうなこと言ってんのよ、私!


「フフ。ううん。その通りだと思う。あーあ、私ってまだまだ甘ちゃんだったんだなー」


 リースは大きく伸びをし、笑った。


「どうしたんだー?」


 ライが飲み物を持ってこちらにやって来た。


「ルーサに叱られたー」

「叱ってないし!!」


 リースが意地悪そうな笑顔でそう言い、慌てて反論する。ライは「??」といった顔だった。


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