第81話 ダラスさんの弟子

「ダラスさん!? 君、ダラスさんの弟子なの!?」


 私たちの周りにわらわらと他の人たちが集まって来る。な、なんで!?


「は、はい。そうですが……」


「マジかぁ……」

「なんでだよ!」

「ダラスさんて弟子いたんだ……」

「まさかあのダラスさんが……」


 皆、口々に信じられないといった言葉を発する。えぇぇ、皆、そんなにダラスさんが弟子取るのが信じられないの!?

 あ、でも、会う人会う人、ダラスさんを知っている人たちは皆、口々に「ダラスの弟子!?」って驚いてたわね……。そ、そんなに!? こうまでして皆から驚かれるダラスさんって一体……アハハ。乾いた笑いしか出なかった。


「ダラスさんて絶対弟子は取らない人だと思ってた……俺のときは断られたのに! くそっ」


 そう言いながら睨まれる。えぇぇ、私のせい!? な、なんか理不尽……。


「ちょっと、ルーサが悪い訳じゃないんだから凄まないでよ!」


 メルが睨んで来た青年に意見してくれる。メル、しっかりした子だなぁ。私なんかより余程大人っぽい。

 他の人たちも同様に庇ってくれた。


「わ、悪かったよ。ごめん。でもさ、俺、ダラスさんの魔石に惚れ込んでたから弟子になりたかったんだよ。でもどれだけ頼んでも断られたから……悔しくてだな」


「あー、分かる。私もダラスさんの魔石を学びたかったから弟子入りしたかったけど、駄目だったし……」


「俺も……」

「私も」


 そう言った声が次々に上がる。ダ、ダラスさんて凄い人なのね……。私、ダラスさん以外の魔石精製師を知らないから、ダラスさんがどれだけ凄いのかも知らなかった。王都にはもう一人魔石精製師がいると聞いたことはあるけれど、あまり関わることもなく、どういう人なのかはほとんど知らない。


 他の街には精々一人いるかいないかといったくらいの人数しかいない魔石精製師。ローグ伯爵領のロダスタにも魔石屋はなかった。そういった街では魔導具屋が王都や近くの街で魔石を発注するのだそう。以前ウィスさんが言っていた。


 それだけ貴重な魔石精製師。そのなかでもトップクラスのダラスさん。城の魔導師団にも卸している。そんな凄い人で気難しく弟子を取らないとされていたダラスさん。

 そんなダラスさんの唯一の弟子である私……そ、そりゃ注目も浴びるわね……。ダラスさんの凄さを甘く見ていたようだ。


「なあ、あんた、どうやって弟子入り出来たんだ!?」

「え、あ、あの……えっと……」


 皆に問い詰められたじろぐ。どうやって弟子入り出来たかって言われても……お父様のおかげだし……う、情けない……。皆はきっと自力で弟子入りを頼んだり、自力で勉強したりしてきたのよね。私って……なんて甘えてたんだろう……情けないわ……。


「なにを騒いでいる! 着席しなさい! 試験の概要を説明するぞ」


「おっと、試験官が来た」


 皆、ガタガタと慌てて着席していく。メルも慌てて前を向く。よ、良かった、助かったぁ。若干凹んだままの試験開始となったけれど……うぐぐ。




「今回の受験者は全員で十名。全員揃っているな」


 試験官の男性は部屋の一番前に立ち、全員を見渡す。座席は半分埋まった状態。


「まずは筆記試験からだ。筆記試験が終わった後に、必要器材の準備、その後、精製魔石を精製、提出。それらが全て終わったら、最後に特殊魔石となる。

 特殊魔石は今日を含め七日間の内に採取をしに行き、七日目の午後までに、提出に再びこの会場へ来ること。そして翌日、同じくこの会場にて合格発表を行う。計、今日から八日間の日程だ」


 皆の顔が引き締まる。いよいよ始まるわね。


「では、今から筆記試験の用紙を配るから、順に回していけ」


 前から順に送られてくる試験用紙。私の前に座るメルから最後の一枚を受け取る。


「全員手元にあるな? では今から二時間後に終了の合図と共に解答を回収する。早くに終わったにしても席からは離れるな。その場で待機だ。なにか質問のある者はいるか?」


 試験官が部屋を見渡しても、特に誰も手を挙げていない。それよりも皆、集中した顔だ。


「では……」


 試験官は持っていた懐中時計で時間を確認する。


「開始!」


 開始の合図と共に皆が一斉に試験用紙を裏返した。紙の音が静かな部屋に響く。そして試験が始まった……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る